その一

小竜姫の言葉に横島は珍しく困惑したような表情になる

「GSはダメなんすか… そりゃ危険ですしね」

ミルクを飲み終えたルシオラをあやしながら、横島は考え込む

元々ただの荷物持ちのバイトなのに流されるままGSを続けて来た横島は、GSについて深く考えたことなど無い

別にGSにこだわりがある訳では無いが、いざ辞めるとなればちょっと考えてしまう


「やはり、美神さん達と離れるのは寂しいですか?」

困惑気味に考える横島に小竜姫は心配そうに問いかける

この先横島の生活環境は、今までと全く違う物になるだろう

そんな中で突然、仲間達と違う人生を歩めと言われたら、誰でも困るだろうと小竜姫は心配する


「いや、美神さんと言うよりはGSについてちょっと考えちゃって… 俺は別にGSになりたかった訳じゃないけど、GSのバイトのおかげでルシオラや小竜姫様に会えましたからね。 いざ辞めるとなったらちょっと考えちゃって…」

少し恥ずかしそうにしながら自分の気持ちを伝える横島

彼にとってGSは様々な存在に会えた証なのかもしれない


「横島さん…」

小竜姫は横島の気持ちを嬉しく感じていた

横島にとってGSが自分やルシオラなどの人外との絆の一つだと気付いて


「横島さんの気持ちはわかるけど、別に横島さんがGSでもGSじゃなくても私達は変わらないのねー」

小竜姫が感動している間にヒャクメが横から横島に優しく語りかける


「そっか ヒャクメにしては良いこと言うな~」

普段はおちゃらけてるヒャクメの優しい言葉に、横島は思わず笑ってしまう


「ヒャクメにしてはってヒドいのね~」

ちょっといじけたような視線を横島に向けるヒャクメ

そんな2人は和やかに会話をしていくが…

一方、言いたい事をヒャクメに持っていかれた小竜姫は、面白くなさそうにヒャクメを睨んでいた



その後も小竜姫とヒャクメの静かなる対立があったが、横島はもちろん気が付かない

赤ん坊のルシオラは基本的に横島の近くから離れないが、パピリオや小竜姫達にも笑顔を向けるようになっていく


基本的に何も知らない横島は、小竜姫とヒャクメに一から教わりながらルシオラの世話を覚えていった


食事の作り方や与え方、お風呂やオムツなど基本的に人間と大差無いようだ

成長は神魔族にも個性があり全く違うため、様子を見ないとわからないが…

ヒャクメの話だと神魔族にしては早いようで、人間と同じような成長スピードらしい



そんな調子で横島がルシオラの世話に悪戦苦闘しているうちに夜になった

お風呂に入ったルシオラは、気持ちよさそうに早々と寝てしまう

寝るまで横島の指を握って離さなかったルシオラの小さな小さな手を離し、横島は静かな寝息をたてるルシオラを幸せそうにずっと眺めていた



「横島さん、お茶にしませんか?」

そんな横島の元に小竜姫が1人やってくる

横島はルシオラに、もう一度布団をかけ直して居間に向かう


「いや~ 赤ちゃんって可愛いけど大変っすね~」

今日1日でいろいろ教わったが、まだまだ1人で世話出来るレベルではない

繊細かつ難しい赤ちゃんの扱いに、横島は珍しく少し疲れを感じていた


「ふふふ…、仕方ないですよ。 赤ちゃんを育てるのは母親でも大変なのですから。 横島さんの場合準備もしてませんでしたしね」

横島を労いつつ、お茶と甘い物を渡す小竜姫

ルシオラを連れて来て以来、少し大人になった気がする横島を小竜姫は優しく見つめていた
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