それは横島が中学生頃の事だった


「忠夫、起きろ！　海に行くぞ！！」

まだ夜が明けたばかりの時間にも関わらず、ドンドンと部屋のドアを叩く音と共に大樹の声が響く

横島の部屋はおよそ１２畳くらいの洋室で、本来は６畳くらいの部屋をタマモが仙術により広げた部屋である

キングサイズのベッドより一回り大きいベッドはルシオラが作った物であり、横島達四人はそこで眠っていた


「お義父様どうされました？」

大樹の声に真っ先に目が覚めたのは小竜姫である

横島宅に来てからすっかり大人しいお姉さんみたいになっていたが、今でも現役と変わらず修業しているし朝が早い

どうやら大樹が部屋に近付くのにも気付いていたようだ


「おはよう小竜姫さん。　今日は天気もいいですし、みんなで海に行きませんか？」

まるで口説くような感じで小竜姫に語りかける大樹だが、これはいつもの事である

大樹の病気みたいなものだし、小竜姫も全く気にしないのだから問題ない


「海ですか？　そう言えば人間は夏に海に行くんでしたね……」

横島宅に住んでからいろいろ人界の事に触れる機会が多い小竜姫だが、さすがに海水浴は未経験だった

人前で水着になる事に少し抵抗を感じる小竜姫だが、横島やルシオラ達は喜ぶだろうと思い海に行くことになる


「親父、車まで借りて来たのかよ」

小竜姫に起こされて話を聞いた横島がリビングに行くと、大樹はレンタカーにクーラーボックスやパラソルなどの荷物を積んでいた

元々アウトドア派な大樹は横島が幼い頃よりあちこちに連れて行ってくれたが、今回はいつにも増して気合いが入っている


「せっかく行くなら車の方がいいだろ？　電車は混むしな」

上機嫌で話す大樹は自信ありげに説明していく

いろいろ困った部分もある人だが、こういう時は頼りになるし横島やルシオラ達の事もしっかり考えている

大樹にとってルシオラ達の存在は、娘が出来たようで楽しくて仕方ないようだった


「まあルシオラ達は目立つから車がいいけど……」

横島も言う通りルシオラ達三人が揃うと、どうしても目立ってしまうのだ

三人共に並外れた美人だし、雰囲気と言うかオーラのような物が並の美人とまるで違うのが理由だろう


「早く準備しろ。　朝飯食ったら行くぞ！」

朝からテンションが高い大樹に押されつつ、横島は出掛ける支度を始める事にした

それから一時間後、大樹の運転により横島達は海へ向けて出発する

借りてきた車はファミリータイプで運転席に大樹が乗り助手席に百合子が乗って、後部席に横島達が二列に乗ってもまだ余裕があった

朝早く起こされたのでルシオラとタマモは少し眠そうだが、海に行くのは楽しみらしく機嫌はいい


「途中で水着買わなきゃね～　横島どんなのがいい？　やっぱりビキニとか？」

２０才くらいの大人バージョンのタマモは、横島を誘惑するようなポーズで笑みを浮かべている

スタイルは三人の中で一番だし、自分のスタイルを理解した上で言っているのだろう


「あんまり際どいのはダメだぞ」

「タマモちゃんはスタイルがいいからいいわよね～」

そんなタマモに横島は自分の女を他人にむやみに晒したくないと告げるが、ルシオラはスタイルという点で若干タマモが羨ましいようである