真の歴史へ・その四

「ガアアア……」

一方八房を片手に持ちながらも目を閉じたまま全く動かない人狼だったが、南部グループの銃弾が命中すると突然苦しみ出してしまう


「急がないとこっちまで巻き込まれるな」

双眼鏡で人狼に銃弾が命中したのを確認した南部グループの兵士は、慌てた様子で撤退していく

それがいかに危険か良く理解してるようであった


「何なの一体……」

「まさか奴ら人狼を始末した?」

突然発砲した兵士と苦しみ出す人狼にルシオラは驚き、横島の緊張感も高まる一方である


「仕方ありません。 二人を連れて現地に向かい人狼を保護しましょう」

「それしかないわね。 これ以上事態が変化すれば、あの人狼がどうなるかわからないわ」

最早一刻の猶予もなかった

罠なのか偶然なのかは分からないが、今動かなければ人狼が一人犠牲になってしまう

小竜姫は即座に動き出し犬塚ジロウと犬飼ポチの元に急ぎ、慎重意見だったタマモもまたここで人狼を見捨てるという選択肢を選べなかった

もしかすれば今後に重大な影響を与えるほどのリスクを抱える事になるかもしれないが、だからといって自分達の歴史改変により変わった世界で救えるはずの命を犠牲にする事も選ぶ訳にはいかないのである



「なっ……」

「あれは一体……」

横島達四人と人狼二人は即座に現地に転移したが、そこで見たモノは体が二倍ほど大きく変化して狂気に満ちた目をした人狼だった

そのあまりに邪悪な変化に、犬飼ジロウも犬飼ポチも息を飲み言葉が出て来ない


「ルシオラ、何が起きたのかわかるか?」

「確証はないけど、恐らくドーピングの類だと思うわ。 霊力値が急激な上昇してるし、人狼の妖力に魔族の魔力が混じってきてる。 妖怪を強制魔族化したみたい」

横島の疑問に答えたルシオラの言葉に、小竜姫達や人狼の二人は言葉もなく聞いてるしか出来なかった

そもそも妖怪と魔族は似て非なる者である

元々妖怪とは人間界に住む霊的生命体の事であり、人間よりは神魔族に近い者達だ

しかし神族に近い九十九神から、魔族や魔獣に近い獣まで種族は広く多種多様である

神魔族は神魔界に括られた存在な為に神魔界の霊的エネルギーで生きるのに対して、妖怪達は人間界の霊的エネルギーで生きている

その存在も在り方もまるで違うのだが、妖怪の場合は人間よりも神魔に近い者達なので、比較的簡単に魔族化や神族化が可能だった

無論妖怪達それぞれの性質や素質に依存するが、特に魔族化は神族化に比べると制約もなく容易にできるのだ


「助ける事は可能です。 人狼を無力化して拘束しましょう」

あまりの事態に二人の人狼は戸惑いを隠せないが、小竜姫ならば魔族化を治す事が可能だった

横島達四人と人狼の二人は、今も魔族化している人狼を一刻も早く保護する為に動き出す



「なんか強い妖怪の反応ね……」

同じ頃オカルトGメンと警察の捜査組は、突然現れた強い妖力反応を追い掛けて山に入っていた

現場検証を終えて一旦警察署に戻ろうとしていた時、突然現れた妖力反応の追跡を開始していたのである

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