真の歴史へ・その三

事務所に戻った横島は応接室にて犬塚ジロウと犬飼ポチに状況の説明をしなければならないのだが、居ない間に見つかった新たな情報もあり説明は小竜姫がすることになる


「お待たせしました」

にこやかな笑顔でお茶を持って応接室に入る小竜姫に、二人はすぐさま固まってしまう

流石に人狼族でも腕に自信がある二人なだけに、正体がバレない方がおかしかった

いくら小竜姫が人間に化けてツノを隠しているとはいえ、超感覚を持つ人狼相手に正体を隠すのは無理である

まあもっと強力な術によりごまかせばいいのかもしれないが、人狼相手にそこまでする理由もない

言葉は悪いが二人がこの後に勝手に行動しないようにさせるためには、暗黙の了解程度に小竜姫の正体を晒す方がいいと判断していた


「では状況の説明を致しますが、まだ状況が不完全ですのでご了承下さい」

小竜姫は二人に対して現時点で分かってる範囲での情報を全て話すが、犬塚ジロウも犬飼ポチも困惑を隠せない

そもそも二人はなぜ神族の小竜姫が人間のフリをしているのか、気になっているのだ


「この者は西の人狼の里の若者です。 何故あいつが八房を持っているのか……」

横島達が謎の人狼と呼んでいた者は、西にある人狼の里の若者だった

しかし着る服は人狼の服ではないし、人間の街に行く時もあんな服は着ないといい首を傾げている


「やはり人間に何かされたのではないか!?」

冷静な犬塚ジロウと対称的に犬飼ポチは、人間が悪いと言い嫌悪感を露にしていた

実際正体不明の武装した人間が居るとの情報には苛立ちすら見せていたのだ


「さてこれからの事ですが、私達に協力して頂けませんか? すぐにでも仲間の元に行きたいでしょうが、明らかに状況が不自然です。 状況の調査と解決には今しばらくの時間が必要なのです」

一通り説明が終わり沈黙する人狼二人に、小竜姫は本題に入るべく語り出した

この事件は未来のフェンリル事件と同じ事件なのに代わりはないが、歴史改変の影響で全く別の裏側があるのは最早明らかなのだ

人狼の二人がむやみに仲間の元に行くといい結果にならないと考えている


(未来で殺された犬塚さんと殺した犬飼さんが来たのは、やはり歴史の影響でしょう。 彼らがあの人狼の元に行けば、おそらく犬塚さんは死に犬飼さんは死かフェンリル化のどちらか……)

横島が連れて来た人狼が未来でフェンリル事件に関わる二人だった事実は、小竜姫やルシオラ達は歴史の修正力の一部だと判断していた

ここで二人に自由な行動を許せば、二人に未来がない可能性が高いというのがルシオラ達の総意である


一方小竜姫の提案に二人は困惑気味だった

様子がおかしいのは理解してるがあの人狼は間違いなく仲間だし、話せば分かるとも思っている

犬飼の言うように第三者による洗脳の類の可能性も否定出来ないが、二人は実力に自信があり二人がかりならば取り押さえる自信があったのだ


「私達は人と妖怪がむやみに争うのを望みません。 決して人狼族の悪いようにはしませんのでお願いします」

小竜姫がそう告げて横島と共に頭を下げると、犬塚ジロウと犬飼ポチは驚き慌てて協力行動をするのを約束する

まあ二人は神族の小竜姫が正体を隠してるとはいえ、あっさり頭を下げた事に驚き頷いてしまっただけなのだが……

誇り高き人狼が嘘をつく訳にもいかないし、神族とかわした約束を破る事ももちろん出来なかった


97/100ページ
スキ