真の歴史へ・その三

先程まで門だった鉄屑が辺りに散乱する中を、小竜姫は無表情のまま進んでいく

それなりに強力な外部からの侵入を防止するような門と結界だったが、小竜姫にとっては物の数ではない


「私達も行くわよ。 今の内に捕まってる子達を救出しないと」

今回の目的はあくまで捕われてる妖怪達の救出である

横島達はわざわざ屋敷の主が居ない時を選んで来ているし、ここの屋敷は設備が厳重な割には警備員の類が居ないのだ

横島達も詳しくは分からないが、屋敷の主がどうも人間嫌いで人を信用しない性格らしい

人を増やせば秘密が漏れる可能性も高まるため、屋敷の防御は固めてるが警備員を雇ってないようだった

まあ屋敷の防御も外部からの侵入よりは内部から捕らえてる妖怪が逃げないようにするための物であるし、第三者がここに侵入するなどあまり考えてないようである

まあ妖怪しか居ない見た目ぼろい屋敷に、第三者が来るなど予想してなかったようだ


「そうだな。 さっさと助けるか」

一応警戒はしてる横島だが、本気で怒ってる小竜姫の前ではあまり意味のない事だった


「いいのか、門を壊しちまって?」

「いいのよ。 どうせ帰りに全部処分するんだから」

粉々に砕けた鉄屑に視線み向けた雪之丞は後始末が気になったようだが、タマモはいつもと変わらぬ笑みを浮かべて問題ないと告げる

この時雪之丞は、タマモもまた内心では怒りが渦巻いてる事に気付いてなかった

見知らぬ妖怪に仲間意識がある訳ではないが、まるで道具やおもちゃのように殺された多くの魂の叫びがタマモには聞こえていた事に気付いてない

その普段と変わらぬ表情の裏に隠された本音は、長い付き合いの横島達三人でなければ見抜く事は出来ないだろう



「これは……」

屋敷の一階は普通の部屋ばかりだった

横島達は迷う事なく地下室に向かうが、地下室に入った雪之丞は表情を凍りつかせる

そこは雪之丞が想像していた場所とは全く違っていた

地下室にはむせ返るような血や何か分からない悪臭が立ち込めており、凄まじい殺気や怨みの視線が雪之丞に突き刺さるのだ

雪之丞が固まり動けない中でも平然と歩いていくタマモは、妖怪達が捕らえられてる牢屋の前に立つと強力な仙術で彼らを全て眠らせてしまう


「雪之丞さん、怪我人でない人から運び出して下さい。 全員妙神山に運びます」

固まっていた雪之丞を動かしたのは小竜姫の声だった

横島やタマモはすでに牢屋の中から眠る妖怪達を運び出しており、纏めて妙神山に連れていく予定である


「ああ……」

その光景はこの世の地獄かと思うほど酷く、戦場など経験した事がない雪之丞はすっかり空気に呑まれていた

そのまま横島達は怪我人を治療しつつ全員を救出し、妙神山に瞬間移動で運んでいく

横島と小竜姫は妙神山に残って助け出した妖怪への対応に当たり、タマモと雪之丞は屋敷に戻って助け残しがないか最終確認をしていた


「じゃあ、後始末するわよ。 よく見ておきなさい」

タマモは屋敷から5メートルほど離れると屋敷に強力な結界を張る


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