真の歴史へ・その三

「私、どこで人生間違ったんだろ」

ふて腐れた表情でソファーに寝転ぶのは令子だった

場所は都庁地下の霊動実験室のコントロールルームで、この日の令子は日勤で勤務を終えた後に訓練の名目で修行をさせられていたのである

しかし令子はやはり日常的な修行には向かなかった

危機感や美智恵のようになりたいとの想いはあるものの、地道に訓練や修行をするのは性格的に無理だったのだ

元々令子は業界ナンバーワンの地位には興味はあったが、別に霊能力で人の限界を極めようなどと考えてた訳ではない

実利である収入に関わるので向上心はあったが、力そのものを欲していた訳ではないのだ

根が真面目な西条は忙しい最中でもコツコツと修行を続けているが、令子は何かと理由を付けては避けたりすることが多かったのである


「令子ちゃん……」

ふて腐れた表情といい態度といいしつけの出来てない子供と同じだと感じる西条だが、それを口に出すほど愚かではなかった

それに令子の気持ちも僅かだが分からないではない

そもそもGSは人間の限界に挑戦する仕事でも、神魔に対抗するのが仕事でもないのだ

加えて隠し事をしたまま強くなれと言われて喜ぶ人など居ないのである


「人類の限界に挑戦したいなら横島クンにでもさせたらいいのよ。 人外が好きみたいだし……」

ぶつぶつと愚痴をこぼす令子は何処か人間離れした横島を思いだし、それほど強い人間が必要なら他人にやらせて欲しいと願ってしまう

まあ美智恵の隠し事に時間移動能力を持つ令子自身も関係する事は何となく理解してるが、厄介でしかない時間移動能力の関係で苦労するなど令子は御免だった



真実を知らない令子はこんな調子でなかなか修行に身が入らないが、これは真実を知っても変わらないだろう

そもそも前世の不始末が今生の自分に来てると知れば、今の令子なら怒り狂うかもしれない

まして前世の自分が来世に繋いだ希望は、別の未来の自分がすでに壊してしまってここの令子には何も残らないのだから……

ある意味この時代の令子は、過去や未来の自分の被害者なのかもしれない


「令子ちゃん、気が乗らないなら今日はそろそろ終わろうか」

そんな令子を西条はいつものように笑顔で宥めるが、疲れは西条の心身共に溜まっている

わがままで奔放な令子と秘密主義で強引な美智恵の間で二人の調整を計る辛さと苦労は、かつての歴史の横島を上回るだろう

タイプは違うが二人の美神に振り回されているし、西条にはかつてのおキヌのような中立的存在もいない

と言うか西条自身が二人の美神に対して、かつての横島とおキヌの二人分の役回りをしているのだからその心中は察するに余りある

本来は横島と共に成長するはずの精神面が成長どころか退化していることからもわかるように、現在の令子を育成している美智恵は人を育てるのが下手なのだろう


(あの頃はよかったな……)

ふて腐れた令子の表情から現実逃避する西条は、かつてのイギリス時代を思い出し昔を懐かしむ

多くの事件を解決して多くの女性と付き合ったあの頃が、今は無性に懐かしかった



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