真の歴史へ・その三

時を同じくして東南アジアのある国のホテルでは、人間に化けたワルキューレとジークが滞在していた


「奴らがこれを南部グループに売っていたのか。 ルシオラの情報通りという事か」

妖怪の密売組織の洗い出しをしていた二人は、組織の末端が南部グループに古代の金や宝石などの財宝を売りさばいていた事実を掴んでいる

ジークがその中の数点の金を入手し調べた結果、南米の品物だと判明していたのだ

二人は以前にアシュタロス一派が人間の会社と取引していた事実をルシオラから聞いており、この発見で妖怪の密売組織とアシュタロス一派が繋がる可能性が高いと確証を得ていた


「妖怪の密売も資金稼ぎの一端でしょうか? 魔界にあるアシュタロスの資産を仕えない以上は確かにかなりの資金が必要でしょうが……」

魔界にはアシュタロスの広大な領地や資産があるが、最高指導者を始め現魔界の体制と距離を置くアシュタロスはそれらを使わずして人間界で活動している

未来においてアシュタロスに出し抜かれる最高指導者の原因は、その辺りのアシュタロスの慎重な活動も影響していたようだ


「奴らは魔界の技術に人間の技術を合わせていたと言うしな。 人間と取引するダミー組織は必要なのだろう。 実質的な計画者はプロフェッサー・ヌルか?」

ワルキューレはルシオラからの情報に目を通して、メドーサの後釜の実働部隊の指揮をとっているのがヌルの可能性があると情報を得ていたのである

プロフェッサーヌルは中世辺りで名を上げていた魔族だったが、ここ数百年名前を聞かない存在だった

どちらかと言えば過激派と言えたが、表立って体制派に盾突く事もなく怪しげな研究を続けていた事は知られている

魔界ではたかだか数百年名前を聞かないだけで死んだとは見なされないが、ワルキューレ達は横島の未来の記憶により死んだと考えられていたのだ


「資金稼ぎと人間に技術開発させるのが目的だと?」

「今のところはその可能性が高いな」

ワルキューレの言葉にジークは、妖怪の密売組織がヌルによる偽装組織の可能性が高いと気付く

その結論にワルキューレは同意するが、全ては推測でしかなく確証を得る為にはより深く調べるしかない

アシュタロスの関与度合いもわからないし、ヌル自身も決してアシュタロスに忠実になる性格ではないため油断も出来ないのだ


「中世で逃げられたのが痛いですね」

「確かに横島達の失敗ではあるが、今更過去に戻ってもこの時代は変わらんしな。 歴史の揺り戻しが来たと思えば仕方ないのかもしれん」

プロフェッサー・ヌルの存在は明らかに未来と比べると失敗だった

しかし強すぎる横島達の力への歴史の修正力と考えれば、仕方ないのも確かである


「それより私としては美神美智恵を拘束した方がいいと思うのだがな。 横島も小竜姫も甘い」

ジークは中世での失敗を痛いと考えていたが、ワルキューレは過ぎた過去よりも美智恵を自由にする横島達の考えが理解出来なかった

時間移動を封じたとはいえ、未来にはないイレギュラーを引き起こす可能性の高い美智恵をワルキューレならば自由になどしないのだろう


「しかし、それが彼らの力になってるのも事実です」

甘いという考えには同意するジークだが、その甘さが横島達の力となり仲間を広げてるのも事実だった


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