真の歴史へ・その三

結局、最悪の事態はルシオラの技術と横島の文珠で阻止するしかなかった

歴史の変化が少ない方がいいのは、未来も中世も変わらないのだから



「これは……」

そんな時、張り裂けそうな緊張感の中で順調に地獄炉を操作していたカオスの手が突然止まっていた


「カオス様?」

「恐らくだがトラップがある。 第三者が地獄炉を停止させれば何か暴走か爆発があるようなトラップが仕掛けられている…………」

カオスの手が止まり地獄炉が止まるのかと期待したマリア姫だが、その期待は見事に裏切られてしまう

ヌルも馬鹿ではないので、見張りもなく地獄炉を放置したのには理由があったのだ


「そんな、カオス様……」

「解除は不可能ではないが、時間がない。 どう考えても間に合わない」

震えるマリア姫を落ち着かせるように淡々と語るカオスだが、そんな中でも地獄炉を止める術を考え続けていた


(いっそ、炉を破壊して無理矢理に地獄との穴を塞ぐか?)

どうせ暴走か爆発するのなら壊して地獄との穴を塞いだ方がいいかとも考えるカオスだが、それはあまりに危険な手段である

カオスはこの時、マリア姫の同行を断り切れなかった自分を悔やんでいた



「そんなのがあるなんて知らないぞ」

「自爆装置はあって当然なのよね。 最悪地獄炉を爆発させて証拠隠滅して魔界に逃げれば問題ないし…… ここの領主がオカルトに寛容なのは調べればわかるんだしね」

予想外の事態に横島は戸惑いを隠せないが、ルシオラにはある程度考えられる展開だった

どちらかと言えば神族対策なのかもしれないが、自分の計画が漏れて危険が迫った時点で地獄炉を破壊して逃げるつもりだったのだろう

神魔界が冷戦のこの時代は明確な証拠さえ残さなければ問題などないのだ


「あれが爆発したらどうなるの?」

「私も詳しくはわからないけど、この辺りは何も残らないだろうしヨーロッパの半分は地獄に汚染されると思うわ」

引き攣った表情で最悪の事態を尋ねるヒャクメに、ルシオラは推測だがと答える

仮に地獄炉が爆発したら人間では対処出来ないし、神族が来るまで放置するしかない

どのくらいで神族が来るかにもよるが、地獄に汚染される土地は広大になるのは明らかだった

「目的はカオスを捕らえる事かもしれんが、結果的に神魔戦争になっても構わないってか?」

「世界を守りたいのは神族の都合だもの。 魔族としては付き合う義理はないと思うわ」

横島の問い掛けにルシオラは好き好んで神魔戦争を起こすかは別だが、結果的に神魔戦争になる事にためらう魔族は少ないだろうと告げる

神族と決着を付けて魔族の世界を作るのか、それともただ破滅を望むのかは魔族にもそれぞれ考えの違いがあるからわからない

だが神族の世界に遠慮する魔族はほとんどいないのだ

神族との争いや神魔の役割に無関心な魔族は多いが、だからと言って人間や神族を気を使う者はいない

まあヌルの場合はどちらかと言うと、自分が神になりたいタイプかもしれないが……


「ヨコシマ、どうする? いくらドクターカオスでも荷が重いわよ」

この過去の事件もある程度シュミレーションしていたルシオラは、自身の予測の最悪の方向に向かっている事を二人に告げていた

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