真の歴史へ・その三

「カオス様! それは本当か!?」

「私が調べた結果ヌルの鎧兵士は人間ではなかった。 それに火竜やガーゴイルが作れるほどの錬金術師なのに、私ですら噂も聞いた事がないからな」

顔色を青くしたマリア姫が真相を詰め寄るが、カオスの答えは厳しいものだった

そもそも中世ヨーロッパの時代では、錬金術師はあまり表立って名乗れる職業ではない

時には神に背く者として教会に狙われる事も少なくない存在なのだが、それでも力のある錬金術師の名前や噂くらいは裏の世界では知れ渡っている事が当然である

令子達が居るこの時代も同様で、カオスの名前もすでにある程度有名であった

この時代はカトリックも表向きはともかく、裏では協力的な錬金術師を黙認する事も少なくない

従ってカオスほどの実力者ならば同業者の情報などが自然と集まるのだが、ヌルなどという名前も噂もカオスは聞いた事がなかった

まあヌルの場合はカトリックと敵対しそうな技術なので当然名前など隠してるとも考えられるが、それを考えても不自然な点がいくつかあるのだ


「そもそも人造モンスターなど作って何になる? あんな物人間にコントロール出来んぞ」

「言われてみれば確かに不自然ね。 あんな物作る技術があるなら、銃や大砲を作った方が遥かに簡単だしお金になるわ」

何故ヌルが作るのが人造モンスターなのかという疑問に、真っ先に令子が食いつく

横島の知る過去では立体映像のヌルとの会話から令子が先に気付くのだが、この時代の令子は経験不足な上にカオスが一人でヌルの鎧兵士やガーゴイルなどを退治したためカオスが先に気が付いたようである


「目的がわからぬゆえ不自然なのだ。 ただ研究したいだけならば、もっと人が居ない場所に行けばいい。 ここは田舎だがバチカンからさほど離れてないし、あの研究をするにはあまりに危険すぎる」

研究者として己の技術を磨き高みを目指すならば理解するカオスだが、領地乗っ取りにも見えるヌルのやり方はやはり不自然だった


「結果的に邪悪な存在が関わってる可能性があるという事か……」

説明が途絶えると西条がカオスの推測からの結果を口に出す

ヌル自身が人間なのか人間でないのかはわからないが、背後や関係者に邪悪な存在がいると西条は確信していた


「出来れば我々だけで解決したいのだ。 この件が公になれば姫や領主殿は無事では済まんしな」

その言葉を語るカオスの表情は、複雑そのものである

錬金術師や魔道師を保護したりする領主のやり方には、同じ貴族からすれば反発を覚える者も少なくない

まして保護した者がモンスターを造ったなどと知れれば、領主や姫は命すら危ういだろう

ヌルの目的も解らぬ現状では、一刻も早くヌルを倒して事態を収拾するしか方法がなかった


「OK……、ヌルを倒すのに手を貸すわ」

現代では決して見れないカオスの人間らしい表情に、令子は渋々ながら手を貸す事に同意する

なんだかんだと言ってもカオスの協力が無くては現代に帰れないし、それに姫や領主を心配する人間らしいカオスを見て令子の心が少し動かされたのも事実だった


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