真の歴史へ・その三

何も話さぬまま老人に連れられて着いたのは、街外れの小さな家だった

お世辞にも綺麗とは言えない家と言うか、ボロ屋と言う言葉がピッタリな家である

案内されるまま家に入るが窓も閉めきったままの室内は薄暗く、窓や壁の隙間から入る日差しが唯一の明かりになっていた


「さて、名も知らぬ魔道士の方よ。 噂を聞き付けてこの街に来たのだろうが、ここはもう安全ではない」

老人は西条を見て魔道士だと勘違いしたらしい

西条から感じる霊力や持っている精霊石に加え、変わった服を着ている者など魔道士以外居ないのだろう


「安全ではないとは?」

西条は魔道士と勘違いされた事に危機感を募らせるが、それ以上に情報が欲しかった

無論警戒は怠らないが、少しでも情報を聞き出す事を最優先にしていく


「ここの領主様は魔術に寛容ゆえ噂を聞き付けた魔道士や魔女がよく逃げてくるが、少し前に来たヌルとか言う魔道士が来て以来領主様は人が変わったようになってしまった」

実は老人も10年ほど前に逃げて来た魔道士だという

最も3年ほど前に引退してこの地で余生を過ごしているらしい


それから老人はヌルが来て以来の事を話していく

元々この土地には数十人の魔道士が隠れ住んでいたが、半分はヌルに連れて行かれて帰って来ず半分はヌルを恐れて逃げたようだ

それに加えて元々優しかった領主が人が変わったように領民から高い税金を取り、人々はヌルが領主を操っているなどと噂をしてたらしい


「カオス様の居ない時に限ってあんな奴が来るとは……」

「カオス様!? まさかドクターカオスが此処に居たのですか!!」

老人はカオスが居ればこんな事にならなかったと嘆くが、西条はその言葉に思わず声を荒げてしまう

西条自身が未来へ帰る為の方法としていくつか考えた内の一つが、ドクターカオスを探す事である

存在自体も疑われるような時間移動をして未来から来たなどと言っても、信じて協力してくれる者などいない

だとすれば今の西条と令子が頼れるのはドクターカオスくらいしか居ないのだ


「カオス様はひと月ほど前に、地中海に吸血鬼退治に向かわれた。 あのお方は錬金術士であり我々魔道士とは次元の違うお方だ。 カオス様さえおられれば……」

老人がため息まじりに嘆く中、西条は僅かだが希望を見出だしていた

マリアが居る事だしカオスならば最低限協力してくれるだろう


(とりあえず僕達も地中海に向かわねばならないか……)

カオスの名前を聞き西条が考え込むのを静かに見つめる老人は、西条に小さな小袋に入った金貨を差し出す

西条は頼みついでに服も二着欲しいといい、服と金貨を精霊石と交換する事で獲得していた

精霊石の代金としては安すぎるのだが、この辺りの田舎では精霊石の価値を知る者すら居ないし一人暮らしの老人には精一杯の金額である


「もしカオス様に会ったら、ここの現状を伝えて欲しい。 今にきっと大変な事が起こる気がするのだ」

そんな老人の言葉を最後に、西条は服を着替えて急いで令子を待たせていた場所に戻っていく
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