真の歴史へ・その三

「さすがに人間界で生きてきただけあって器用じゃのう」

ゲームに熱中していた老師は、ふと手を止めてタマモの様子を見つめていた

系統が同じ術を使う老師なだけに、人間の道具をうまく利用したアレンジを見せるタマモに感心している

見た目は簡単そのものだが、実際それほど簡単ではない

元々ある仙術を人間のオカルトアイテムを利用してアレンジするなど、誰もやった事がないだろう

最も現代の人間界には仙術を使える者が、ごくごく僅かしか居ないというのが大きな理由だが……


「老師に言われてもね~ 私は老師ほどの力がなかったから、頭を使わなきゃ生きてこれなかったのよ」

器用と言うよりは、生きる為の知恵という感覚がタマモには強い

かつて単独で神界に攻め入ったほどの力を持つ老師ならば、必要ない技術なのだ

前世の金毛白面九尾の力が中級神魔上位くらいであるとすれば、斉天大聖は最上級神魔に限りなく近かったという

同じように東アジアで有名な存在だが、タマモから見れば老師は別格であり比べるまでもない


「話の次元が違うな……」

共に伝説まで残す二人の何気ない会話に、雪之丞は飽きれ気味で聞いている

二人の会話の重みは、昔話などを知らない雪之丞ですらわかるのだ


(無知な奴は気楽でいいね~ 斉天大聖の本当の恐ろしさは人間にはわからないよ。 人間に伝わる奴の伝説はまだ奴が大人しく書かれてるからね)

昼から一人で酒を飲んでいるメドーサは、思わず背筋が寒くなる気がした

人間に伝わる老師の伝説はまだ神族が絶対的に伝わっているが、現実はもっと違ったらしい


(仮にこいつらの目的がアシュ様の討伐だとしたら…… 世界の終わりが来るかもね)

今だに知らない横島達の真の目的がアシュタロスに関わるなら、世界の終わりが近いとメドーサは感じる

斉天大聖とアシュタロスが全面対決などすれば、人界の文明などすぐに消し飛んでしまうだろう

それどころか神魔の全面戦争に発展するのは、想像に難しくない


(唯一の救いは、斉天大聖が人間界を気に入ってるって事か……)

イマイチ見えてこない老師の思惑を考えるメドーサだが、老師が人間界を気に入ってる事は分かっている

そしてメドーサにはそれが救いでもあった

メドーサとて、アシュタロスと斉天大聖の全面戦争になど当然巻き込まれたくないわけだし……


メドーサがそんな事を考えてる間に、タマモは出来上がった鳥型の式神を外に放していた


「逃がしちゃうんですか?」

式神をイマイチ理解してないおキヌは、普通の鳥と同じ感覚で逃がしたのかと思う


「あの子達には仕事があるのよ。 ちょっと調べたい事があってね。 後は私が式神から来る情報を受け取るだけよ」

意味深な笑みを浮かべたタマモは、一仕事を終えてリラックスした様子でソファーに座りくつろぎ始める


(式神のコントロールもあれだけ数が多いと楽じゃないだろうに…… こいつも化け者だね)

あまりオカルトに詳しくない雪之丞やおキヌ達はちょっとした手品でも見た気分だったが、30匹は居たであろう式神を軽々とコントロールするタマモにメドーサは驚きと飽きれの入り混じった気持ちだった


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