真の歴史へ・その三

「報告します。 只今都内にて時空振を感知しました」

その時、横島事務所では人工幽霊が時空振を感知していた

これはハーピーの時は間に合わなかった、時空振感知システムである

ルシオラはこのシステムを人工幽霊に任せており、美神親子の時間移動を常時警戒出来るシステムをなんとか開発していたのだ


「人工幽霊、詳しいデータを研究室に送って!」

深夜の時間にも関わらず、ルシオラは慌てて誰が時間移動したのか確認に向かう


「とうとうやったわね……」

人工幽霊から送られて来たデータを調べると、時空振の震源者は美智恵だとすぐに判明する


「ルシオラさん」

すでにパジャマを着ている小竜姫も事態を知りやって来るが、その表情は険しかった


「美神美智恵が動いたわ。 やはり彼女は未来を求めた」

その言葉は冷静だが、ルシオラの心中は複雑だった

美智恵が何を犠牲にしても令子を守りたい気持ちは、ルシオラも理解出来る

かつてルシオラも同じく、何を犠牲にしても横島を守ろうとしたのだから……

しかし、美智恵の時間移動はこれ以上許せるものではない

時空間の乱れや不用意な歴史の改変は、破滅を阻止するためには絶対認められないのだ


「それで、彼女の身柄は抑えたのですか?」

「ええ、トラップにかかったから、彼女は亜空間に居るわ」

小竜姫の問いにルシオラは答えつつ、カタカタとキーボードを打つ

するとモニターには漆黒の闇の中であがく美智恵の姿が写された


「予測はしてましたが、本当に未来に行くとは…… やはり彼女には美神さんの未来が全てなんですね」

闇の中であがく美智恵を見つめる小竜姫は、怒りを通り越して飽きれている

美智恵の高い能力を知るがゆえに、娘しか見えない狭い視野には哀れにさえ思う


「このシステムがなかったら、歴史の改変合戦になるとこだったわ。 彼女はどうしても私達の上を行きたいのね」

ルシオラの言葉に小竜姫は無言のままため息をはく


このシステムこそが、ルシオラの対時間移動の切り札である

関東近県を警戒出来る時空振レーダーと、それと連動させた時間移動トラップ

時空振の感知自体はさほど難しいものではないのだが、レーダーの監視範囲と対象の限定にはルシオラも苦労していた


一方トラップの方は比較的簡単である

かつてアシュタロスが冥界のゲートを封じたと同時に、時間移動も封じた術の流用だった

レーダーで時空振を感知した瞬間に震源者と行き先を特定して、美智恵の未来への時間移動の場合は妨害霊波により亜空間に強制転移される仕組みである

アシュタロスのように常時時間移動を封じるだけの力や技術はルシオラにも無いが、一瞬だけならなんとか可能だった


「神魔の警告を無視するとは……、私がナメられてるのでしょうか?」

未来で最後に念を押して禁じたはずの時間移動をまた使った美智恵に、小竜姫は自分の甘さを利用して美智恵がナメてるのかと疑問に思う


「ナメられてるってよりは、足元を見てるんでしょうね」

小竜姫のつぶやきに答えたのはタマモだった

どうやら風呂上がりらしく髪が濡れたままで、横島と一緒に現れる


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