真の歴史へ・その三

「結局、確証が無いのよね」

困ったようにつぶやくタマモの言葉に、ルシオラ達は無言になってしまう

未来の歴史を知ってはいるが、それはほとんどが横島の知る事だけである

事件の実体験はとしては詳しいが、問題の裏側や細部は知らない部分が多い

特に令子が関わらないような金にならない問題は横島も全く関わってないため、どうしようもなかった


「古来より人は歴史の裏側で、妖怪を捕らえて利用して来たわ。 現代でも心霊兵器の開発に妖怪をモルモットにしてるなんてよくある話だし……」

重苦しい空気の中、ルシオラはオカルトGメンの最重要機密となっている資料を横島達に見せる

その資料には先進各国を初め、世界中の心霊兵器の開発を行っている国々の名前が記されていた

そしてその中身には、非人道的な研究も行われている可能性を指摘しているのだ


「これは……」

あまりに酷い資料に小竜姫の手は震えている

全ての心霊兵器が妖怪や人外を犠牲にしている訳ではないが、その世界では公然の秘密として妖怪はモルモットのように扱われていた

そのあまりの事実に、何も知らなかった小竜姫は言葉も出ないようである


小竜姫も含め横島達は未来での神魔戦争の時に、人間達の様々な兵器を見てきた

しかし人間社会に疎かった小竜姫は、まさか心霊兵器を開発するのに妖怪や悪霊でテストしてるとは思いもしなかったようだ


「動物実験と同じ感覚なのでしょうね。 所詮は人間じゃないし……」

前世を合わせると数千年人間社会で生きてきたタマモは、比較的冷静だった

自然界は弱肉強食が掟だが、人間社会は人間じゃなければ悪なのを身を持って良く知るのだから


「つまり、南部グループは氷山の一角ってことか……」

今まで知らなかった人間社会の裏側に、横島は恐怖を感じていた

妖怪狩りをしそうな連中は、世界中にいくらでもいるのだ

かつて未来でのアシュタロス戦の折、人類の裏切り者にされた横島は人間の身勝手さと恐さを良く理解している

仮に妖怪の現実が表沙汰になっても、多くの人間は素直に受け入れてしまうだろう

そんな非情過ぎる現実に、横島はいい現れしようがない怒りを感じていた


「とりあえず、保護地区の警備を増やすのが先ね。 あとはワルキューレさん達の報告待ちかしら」

重苦しく沈んだ空気の中、ルシオラは保護地区の警備計画をを急ぐことにしていた

妖怪狩りに関しては、以前少し話しに出ていた妖怪の密売組織と同時に調査を進めていくことになる



その後、横島は一人屋上で空を見上げていた


(昔は事件の裏なんて考えもしなかったな~)

人間社会の負の部分については未来で嫌と言うほど見てきたが、妖怪狩りをしている連中が居るなどとは思いもしなかった

弱肉強食と言えばそれまでだが、あまりに勝手過ぎると横島は思う


(妖怪を守ろうと考える人も居れば、滅ぼそうとする人も居るのは当然なんだけど……)

問題の根深さと複雑さに、横島の思考はどうすればいいかわからないまま迷走していく


(何かきっかけが必要だな。 今は守る側があまりに少ない)

現在の世界はあまりに妖怪を好き勝手し過ぎる

横島はそのバランスをどう取るべきか一人悩んでいた


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