真の歴史へ・その二

その頃、ある地方の人里離れた山奥で銃声が鳴り響いていた


「はあ…、はあ…」

道なき道をただひたすらがむしゃらに走る女性は、腕の中の我が子だけは守らねばと心に誓っている


「母ちゃん、大丈夫?」

母に抱かれている子供は、銃で腕を撃たれた母を心配そうに見つめている

道なき森の中を走って来たせいで母親の体はあちこち傷ついているおり、左腕には銃で撃たれた傷があったのだ


この母親の名前は美衣、そして子供の名前はケイ

この二人は、かつて未来において横島が初めて助けた妖怪である


「ケイ、何があっても強く生きるのよ」

ここまでなんとか逃げて来た美衣だが、これ以上は逃げられない事を悟り初めていた

周囲には自分達を追う複数の人の気配で囲まれており、とても逃げきれそうもない


「母ちゃん……」

ケイは突然言われた別れの言葉に、涙が溢れて言葉が出ない



「あんた達、何したんだい?」

そんな時、突然背後から声がした

その声に美衣は驚き、敵対心むき出しで声の方向を睨む


(化け猫の私がこんな間近に人が居たのに気付かないなんて……)

周囲を取り囲む追ってに気を取られていたのは確かだが、わずか3メートルの近くに人が居たのに気付かなかった美衣は己の不覚を嘆いていた


「いたぞ囲め!」

美衣が突然現れた女性と睨み合う中、二人を追っていた連中が周囲を取り囲んでいく


「今度は人間か…… あんた達は、何者なんだい?」

美衣達と一緒に居たために取り囲まれてしまった女性は、周囲の連中を冷たい視線で見つめている

数はおよそ20人でそのうち半分の銃口が向けられるが、女性は気にしたそぶりもない


「殺せ」

女性に対しての答えは、わずか一言だった

リーダーらしき男の一言で、取り囲んでいた連中は一斉に女性を撃つが……

銃が撃たれた時には誰も居なかった


「馬鹿な消えただと……」

リーダーらしき男は、突然目の前から消えた事が信じられないようにつぶやく


「妖気反応も無いぞ!」

仲間の一人は携帯電話くらいの大きさの機械を見つめ美衣達の逃げた方角を探すが、全く探知しない


「探せ! 近くに居るはずだ!」
 
男達は慌てて美衣達を探して周囲に走っていく


「あの連中堅気じゃないね」

美衣とケイを抱えた女性は、離れた場所から怪しい男達の行動を見てため息をはいていた

関わるつもりなど無かった女性は、突然巻き込まれて少し不機嫌である


「あの…、ありがとうございます」

一方何が起こったか全く理解出来ない美衣だったが、状況的に助けられたのは理解している

あの瞬間、美衣はケイを銃から守るように抱きしめたまま何も出来なかったのだ


そしてそれは本当に一瞬だった

来るはずの銃弾が来ない事を不審に思った美衣が目を開けると、先程の女性に抱えられたまま別の場所に居たのだ


「別にあんた達を助けるつもりはなかったよ。 たんなる気まぐれさ。 アタシはメドーサ、あんた達は猫又だろ? 一体なんで追われてたんだ?」

二人を助けたのは、なんと先日横島の事務所を後にしたメドーサだった

彼女にしてみれば妖怪が人間に退治されるなど珍しくも無いのだが、あの瞬間つい気まぐれで声をかけてしまったのだ

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