真の歴史へ・その二

その頃、事務所の客室ではメドーサが静かに眠っていた

小竜姫は同じ部屋に居るが、特に警戒する事も無く本を読んでいる


(ただベッドに寝せておくだけと言うのは一見危険なようですが、メドーサが相手では逆に安全でしょうね)

チラリとメドーサに視線を移した小竜姫は、僅かだが笑みを浮かべていた

メドーサの危険性は誰よりも知っている小竜姫だからこそ、逆に安全だと確信している

メドーサのような戦いのプロは、ガチガチに拘束されてれば抵抗して暴れるかもしれないが、何も無ければ逆に怪しんで警戒するはずだ

少なくとも話は出来るだろうと小竜姫は考えていた


(最も、話をした後はわかりませんが…)

長年横島と共に歩んで来た小竜姫でさえ、横島がメドーサをどうするのかわからない

説得出来る相手ではないのは良く理解しているが、それでも小竜姫は楽観的だった


(横島さんは妙に人の心に入り込むんですよね~ 結果だけを見ると何故か上手くいきますしね)

この辺りの考えはルシオラ達と同じであり、横島を良く知るだけに信頼しているようだ



それから30分ほどした頃、メドーサは静かに目を覚ます


「アタシは…」

見知らぬ天井に、メドーサは一瞬何が何だかわからないようだった


「目を覚ましましたか?」

その声にメドーサは、ベッドから飛び起きて刺又を出した


「小竜姫! 何のつもりだい!!」

小竜姫を警戒しつつ、状況を把握しようと部屋を見渡すが普通の部屋だ

メドーサはこの状況をどう判断していいか迷ってしまう


「とりあえずそれをしまいなさい。 あなたをどうにかするなら起きる前にやってます」

読んでいた本を閉じた小竜姫は冷静に語りかけるが、そう簡単にメドーサが小竜姫の言う事を聞く訳も無く睨みつけるのみだった


「逃げるならお好きに… ここは東京の横島事務所です。 結界は張ってますが、あなたなら破れますよ」

膠着状態のまま小竜姫は、特に戦闘する意思も見せずにメドーサに好きにしろと話す


「いいだろう。 話を聞いてやろうじゃないか」

少し考え込む表情を見せたメドーサだが、決心をしたようで刺又を消してベッドに座り込む


この時、小竜姫の言葉は見事だった

話を聞けと言われると嫌だと言うだろうが、逃げるなら好きにしろと言われると話を聞きたくなる

メドーサの心理の裏をかいた小竜姫の誘導だった


「そうですか… では横島さんを呼んで来ます」

小竜姫はそう告げると、メドーサに後ろを見せて部屋を後にする


そのあまりに無防備な小竜姫に、メドーサは一瞬殺せると思うが動くことは無かった

これまでの小竜姫の行動を考えると罠の可能性も高い

それに、わざわざこんな面倒な事をした理由も知りたかった


(横島忠夫…? 何故、奴を呼ぶんだ?)

小竜姫の思惑を考えるメドーサは、何故横島を呼びに行くのか理解出来ない

そもそも神界の命令で動いている小竜姫が、何故自分を拘束もしないのかわからないのだ

そんな考えれば考えるほど奇妙な小竜姫に、メドーサは気味の悪さを感じていた



それからしばらくして部屋に入って来たのは、横島と小竜姫の二人だ


「やっと落ち着いて話せるな…」

部屋にある椅子に座った横島は、ホッとした表情でメドーサに語りかける
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