平和な日常~冬~2

さて昨夜に続きパーティー用のカステラと飴細工を作っている横島達の方はと言えば、相変わらず計画的にスイーツを量産していた。

トラブルどころか予定している計画には遅れすらなく木乃香とのどかは流石はプロだなと感心するが、実際には新堂の店のチーフパティシエの男性が残り時間を見ながら作るスピードをコントロールしてるだけである。

無論新堂もしっかり仕事をしているが新堂の店での一番の経験者はチーフの彼であり、天才肌な新堂を現実という観点からサポートしてるのは明らかであった。

まあ新堂は横島ほど気分屋ではないし脱線もしないが、新堂は理想を求めチーフは現実を求める姿は木乃香とのどかから見て驚くほど絶妙だと思う。

流石は麻帆良でも有数の人気店は違うなと勉強になることが多い。


そもそも二人が比較対象にしてる横島は、基本的に気まぐれでトラブルやハプニングを楽しんでる節があるのは木乃香とのどかも理解している。

本人にどこまで自覚があるかまでは分からないが、予期せぬハプニング等への対応力は非常に高い横島だが計画性は正直あまりない。

麻帆良祭の時もそうだったが、最低限の計画の中で自由にやるのが横島のやり方なのだ。

それは超やあやかのような才能豊かな者が力を発揮する反面で、夕映やのどかのような一般的な者は苦労する時もある。

チーフの彼はそういった意味では誰よりも現実が見えているのだと、特にのどかはシミジミと感じる。


「私には新堂オーナーや近衛さんや横島シェフのような才能がないからね」

それは以前チーフの彼が木乃香と一緒にスイーツ作りに参加し始めたのどかに対して語った一言だった。

横島の気まぐれに乗ってしまう新堂と木乃香に少し困っていた彼は、のどかが来た時に歓迎した理由についてこっそりと教えてくれたのだ。


「横島シェフを見てると本当に羨ましいよ。 でもね商売をする以上は必ずしも物を作る才能が全てではない。 才能豊かな人には常人にはない危うさがある。 だから私はここに居るんだけどね」

自ら才能がないと言い切ったチーフの気持ちが、のどかは少しだけ分かった気がする。

のどかの場合は同じように横島に料理を教わりつつも、明らかに上達スピードが速かった木乃香を間近で見て来ただけに理解出来るのだろう。

そして彼が語った危うさという意味でも何となくだが理解出来る気がした。

歴史を見ても天才と呼ばれた存在は星の数ほど居たが、本当に才能に見合う成功者として名を残せなた者は多くはない。

本が好きで様々な本を読んで来たのどかは、そんな歴史に残る才能豊かな者と横島は意外と共通点が多い気がしたのだ。

元々のどかに限らず木乃香も明日菜も夕映も、そんな横島の危うさを感じたが故に横島に深入りしてしまったのだからチーフの存在が新堂の店においていかに重要かは理解している。


友人である夕映は彼のように誰よりも現実を見て横島をサポートしていた。

結果木乃香のような才能も夕映のような現実性も明日菜のような行動力もないのどかは、自分はこれから先どうするべきなのだろうと考え始めることになる。



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