平和な日常~冬~2

帰宅した横島はタマモを膝の上に乗せて晩酌を始めるが、エヴァは特に自分から何かを切り出すことはなかった。

近右衛門が忙しいのはエヴァも知っているし、横島にはまだ話してない可能性も十分ある。

実際近右衛門の年の瀬は例年でも忙しいのに、今年は明日のパーティーや年末年始の仕事に加えて横島の影響で情報関連の仕事も増えたので本当に多忙だった。

そのあまりの忙しさに穂乃香も己の立場を弁えつつもサポートしているほどである。

エヴァの解呪に関しても、あれから近右衛門がまだ横島の店に来てないこともあり横島はまだ聞かされてない。


「うわ~、美味しいですね」

そんな横島宅のリビングだったが、さよとタマモはお土産に買って来た新堂のスイーツを食べている。

横島はエヴァにもどうかと声をかけたが、流石に熱燗に甘いスイーツは食べないらしく断られていた。


「あの人は本当のプロだからな~」

日頃横島の作るスイーツを食べ慣れてる二人でさえも美味しいと感じるほど洗練された味だった。

横島は基本的に自分の味というモノを持たないが、新堂には自分の味というモノがある。

まあタマモとさよからすると、どっちも美味しいと言われてしまうだけだったが。


「本当のプロか」

「ああ、俺はプロじゃないからな。 ぶっちゃけ趣味の延長線上にあるようなもんなんだよ」

ただ日頃から自分はプロではないと言う横島に慣れてるタマモとさよと対称的に、エヴァはその言葉に少し引っ掛かるモノを感じる。

まあエヴァも過去に何度か聞いた言葉ではあるが、横島が人間ではないと知り近右衛門から変わり種だと聞いた後だとまた印象が変わって聞こえた。


「まあ完成した料理やスイーツにプロかアマチュアかなんて書いてる訳じゃないけど」

一言呟くように言葉を発したエヴァは横島を探るように見ていたが、横島はその視線の意味を理解しつつも微妙に答えたようで答えてなかった。

そもそも横島の認識のプロとアマチュアは一般的な認識とは微妙に違いがある。

一般的にはそれを専門に仕事にするのがプロだとの認識が大多数だろうが、横島の場合はそれに覚悟がない以上はプロではないと思っている。

これに関しては横島の認識の元になっているのが、かつてのオカルト業界での経験なので仕方ないだろう。


「私は美味しければそれでいいと思いますけどね」

「うん、わたしもそうおもう」

プロという言葉は少し重荷だと感じる横島に気付いたエヴァはその理由を考えていくが、さよとタマモは正直プロかアマチュアかなんてどうでもいいようだった。


「わたしはよこしまのつくるものがいちばんだよ!」

特にタマモは横島の作る物が一番だと自信を持って言い切るとニッコリと笑顔を見せる。


「ありがとうな。 よし、明日はパーティーだから無理だけど、明後日は二人の好きな物を作ろう」

二人の言葉は横島にとって本当に嬉しいもので、横島はお返しにと明後日には二人の好物を作ることを約束すると二人もまた笑顔で嬉しそうに笑っていた。

エヴァはそんな横島達を表情を変えることなく見つめていたが、今更ながら少しでも羨ましいと感じてしまう自分が居ることに正直驚いてしまう。

ただそんな想いを決して表面に表すことはなく、その後も静かに酒を飲み続けたが。

結局この日はエヴァの解呪に関しては何一つ話すことなく終わっていた。



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