そして肝心のカステラ作りに関しては、前日である今日と当日である明日の二日で計画的に作る予定である。

加えて新堂と木乃香はカステラと一緒に小さな飴細工をカステラに一つずつ付けることも決めており、こちらの製作もカステラ作りと同時に行わねばならない。

予定では千五百個のスイーツを用意する予定なので、どちらかと言えばカステラよりも飴細工の方が大変だったりする。


「こういう芸術的な物って得意じゃないんなんだよな」

千五百個の飴細工を作るに際しそれを決めてから一週間ほどあった時間で、横島は木乃香とのどかに飴細工の技術を基礎から集中的に教えていた。

僅か一週間でしかも学校に通いながら放課後や夜の短い時間で飴細工の基本的な技術を習得した木乃香とのどかに新堂のスタッフ達は唖然としたが、同時に僅か半年足らずで料理大会優秀まで導いた横島が普通でないことを改めて見せ付けた形となっている。

最も流石の木乃香も時間の関係で飴細工で作れるレパートリーは多くなかったが、作る物を絞った分だけ完成度は悪くなかった。

そして木乃香と一緒に飴細工を教えたのどかだが、こちらは周りの予想以上に飴細工が上達している。

どうも彼女は手先が器用なようで、飴細工のレパートリーは木乃香より僅かだが多いほどであった。


「貴方にも苦手な分野があったのね」

「手先が器用なんで何かを作るのは得意なんですけど、実は見た目とか芸術性が問われることは結構苦手っすね」

新堂と横島と木乃香とのどかはカステラの作業と平行して飴細工で花や動物やリボンなどを作っていくが、手際の良さの割に横島は飴細工なんかは得意ではないと言い切る。

新堂はそんな横島をからかうように笑っているが、実のところ横島本人は元より横島の継承した魂にも芸術的な感性や経験はあまりないので芸術性が問われる分野は少々苦手であった。

今回は飴細工のデザインを新堂と木乃香が決めたので作るだけならばよかったが、横島が基本的にはデコレーションなんかの芸術的な感性が問われる作業は料理全般においてあまり得意ではない。

尤も形としてすでに存在する物を真似るのは得意中の得意なので、他人のデコレーションなんかを参考にすれば作れるが自らの感性で一から作るのはあまり経験がない。

特にスイーツに関しては魂にある複数の料理経験と技術を独自の超感覚で補い応用して作ってはいるが、厳密に言えばパティシエの経験がある訳ではないので味に比べると苦手としか言いようがなかった。


「それは料理人やパティシエの永遠のテーマの一つですもの。　そこまで得意だと言われると逆に怖いわよ」

新堂やスタッフ達からすると完璧にすら見えた横島の意外な弱点の暴露に、思わず笑ってしまい当然だと言い切る。

正直なところ端から見ると本当に苦手なのか分からないが、横島の若さで芸術性まで完璧だったら逆におかしいのだ。

基本的に料理には明確な答えがないが、特に見た目のデコレーションや盛り付けなんかは味以上に明確な答えなどないのだから。

実際そこをどうするかは料理人やパティシエの個性であり、オーソドックスな形であれ奇抜な形であれ明確な間違いではなかった。

ぶっちゃけ新堂のスタッフ達は横島の悩みがあまりに次元が違い過ぎて、やっぱり別次元の人なんだなとシミジミと感じてしまう。