平和な日常~冬~2

さて麻帆良ホテルを後にした横島と木乃香は新堂の店を訪れていた。

いよいよ明日のパーティー当日に向けてスイーツ作りを始めるのだが、スイーツ作りに関しては専門の調理機器が揃っている新堂の店で造ることになっていたのだ。

単純に厨房の広さだけならば横島の店の方が広いが、やはり専門の新堂の店の厨房の方が大量生産には向いている。


「会場の方はどう?」

「問題ないっすね。 本当に手慣れてますよ」

横島達が新堂の店の厨房に入ると、すでにのどかは一足先に来て手伝いを始めており新堂達は調理を始めていた。

新堂は横島達に会場の様子を尋ねるが、彼女も会場の設営を心配してる訳ではなく念のため聞いたようである。

お祭り慣れしている大学部の人達はそれだけ頼りになる存在だった。


「うわぁ、美味しそうやわ~」

一方の木乃香はさっそくスイーツ作りに加わるが、一足先に完成した明日披露するスイーツの一つに思わず笑顔をこぼしていた。

厨房には甘い焼き菓子の匂いが広がっており、外から入って来るとその匂いに誘われるのだ。


「結局カステラにするとは思いませんでしたよ」

「ウチと新堂先輩が一番しっくり来るのがカステラやったんです」

新堂と共に明日の主役である木乃香が来たことで新堂のスタッフ達もいよいよかと気合いが入るが、スタッフの一人は新堂と木乃香がカステラを選んだことが不思議そうであった。

横島の気まぐれもあって和洋問わずいろいろなスイーツを試作してみたものの、最終的にはごくごくシンプルなカステラに行き着いている。

種類はオーソドックスなプレーンと小豆入りとチョコの三種類であり、どれも抹茶との組み合わせを前提にした一品になっていた。

これに関して横島は最終的には口出しせずに新堂と木乃香が決めたのだが、洋菓子でありながら古くから日本に根付き和菓子でもあるカステラを二人は選んでいる。

横島は個人的にはもっとインパクトがある物の方がいいのではとも考えていたが、新堂と木乃香は限りなく基本に近いカステラで勝負がしたかったようだ。

特に新堂が見た目がシンプルな故に味が全てであるカステラを選んだのは、少なからず横島と木乃香の影響があったのは確かだろう。

今回新堂は本来彼女が得意としたスイーツ一品で何かを表現するのではなく、スイーツと抹茶やそれを提供する空間を総合的に表現の場にしようと考えたようだった。


「やっぱりみんなでこうして作るのは楽しいわ~」

「そうだね」

それから横島と木乃香が加わったことで本格的に明日のスイーツであるカステラを作りが進むが、横島は元より木乃香とのどかはやはり楽しそうだった。

新堂のスタッフと木乃香達の一番の違いはそこだろう。

まあ仕事として毎日働いてる大人と学生の違いはあるのだろうが、それを除いても木乃香やのどかの楽しそうな調理はスタッフ達にとって印象的である。

実際木乃香の凄さの秘密はその自然体と無欲さにあるのだとスタッフ達は思っていた。

まあ必ずしも自然体や無欲がいい訳ではないが、若い木乃香が自然体で無欲なのは実際の木乃香の実力からしても悪いことではない。

明日の本番を楽しみにしつつ調理を続ける木乃香は、年相応の幼さが見えて周りはどこかホッとしていた。



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