平和な日常~冬~2

「木乃香ちゃんもすっかり有名人だなぁ」

一方横島はと言えば木乃香のあだ名や噂に、やはり他人事のような反応を示していた。

内心では自分の時と違い噂が好意的だなとは思うが、原因のかなりの部分が自分にあるとは思わないらしい。


「貴方も噂通りの人ね。 今年の麻帆良学園・オブ・ザ・イヤーの最有力候補なのに」

そして女性はそんな横島を見て何故かクスクスと笑っている。

実は麻帆良では毎年その年に一番活躍した人を勝手に表彰する制度というかイベントがあった。

横島は麻帆良祭に加えて納涼祭と体育祭での活躍により、その最有力候補だと言われている。


「それは俺よりもっと相応しい人が居るでしょう。 俺は慎ましく生活してるだけですから」

麻帆良学園・オブ・ザ・イヤーの話は以前から時々横島自身も耳にしていたが、はっきり言えば横島は自分がそれに受賞するとは全く思ってない。

多少目立った自覚はあるが、横島からするとそれこそ超鈴音やあやかや木乃香の方が適任だと考えている。

ただ超鈴音は昨年の麻帆良学園・オブ・ザ・イヤーに受賞しているので、今年は候補から外されているなんて事情もあったが。


「貴方が慎ましく生活してるなら、他の人達はどうなるのよ。 麻帆良祭では中等部初のイベント総合一位に納涼祭の主催者もしたし、体育祭ではまな弟子の近衛さんの優勝に自身も活躍したらしいじゃない」

自称慎ましく生活してると語る横島に女性は思わず笑ってしまい、木乃香も仕方ないなといいたげな表情で笑っている。

女性は横島の発言を冗談だと受けとったらしいが、木乃香は割と本気で言ったことを理解していた。

まあ散々目立っておいて今更慎ましく生活してたなんて言っても誰も信じないだろうが、横島本人はその場の流れに乗って騒ぎを拡大させただけなのだということを木乃香はもちろん理解している。


「俺は人並みに楽しんだだけなんですけどね」

なんでこんなに目立ったのか実は横島本人が一番聞きたいくらいなのだが、女性や周りの大学生達はまたもや冗談かと思ったらしく笑うばかりだった。


「偶然なんだけどな。 麻帆良祭も納涼祭も体育祭も狙った訳じゃないんだが」

その後横島と木乃香は大学生達に準備を引き続きお願いをして帰ることになるが、横島は偶然が重なった怖さをシミジミと感じている。

当然何一つ狙った訳ではないし、特に木乃香の料理大会優勝は木乃香の努力の結果なのだから横島の影響だと言われるのは抵抗があった。

実際横島は木乃香の料理大会については予選突破までは狙っていたが、後は木乃香の努力と運により得た成績である。

それを横島の影響だと言われるのはあまりいい気持ちはしないのが本音だった。


「運と偶然も実力のうちなんて言葉もあるえ。 桜子みたいに横島さんの運と偶然も実力なんやと思うわ」

ただ木乃香本人は料理大会の優勝に関して、かなりの部分で横島のおかげだと考えている。

そして横島が招く騒ぎの結果は、全て横島の運と偶然による実力なんだろうと思っていた。

実際横島が居なければ麻帆良祭も納涼祭も体育祭の結果もなかったような気がしてならないのだ。


「そうなのかな~ 昔はこんなことなかったんだが。 変人扱いばっかりだったからな」

そんな木乃香の言葉に横島は、少し考え込むような仕種で昔を思い出していた。

割と騒ぎになることは昔からあったが、昔は良くて変人扱いであり悪いとゴキブリ並の扱いしか受けた記憶がない。

横島自身はそんな過去と比べると自重しているし、ただ少しだけ周りの少女達を楽しませたいと考えただけである。

流石に嫌われるのが好きな訳ではないのでいろいろ気を使ってはいるが、結果が考えた以上になることに関しては正直横島自身にも何故そうなるのかよくわからなかった。


「横島さん鈍感やから、きっと周りに理解してくれる人が居ても気付かんかったんや」

「人をギャルゲーの主人公みたいに言うなって。 本当にモテなかったんだから」

不思議そうに考え込む横島を見た木乃香は、確信を持って横島が鈍感だったんだと言い切る。

もちろん横島は即座にそれを否定するが、木乃香はやはり全く信じてなかった。



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