平和な日常~冬~2
それから数日が過ぎると、いよいよ学園主催のクリスマスパーティーの前日になっていた。
この日横島と木乃香は、会場の設営状況の確認をする為に麻帆良ホテルを訪れていた。
「高そうなホテルだな」
そこはやはり一般的な日本らしくないホテルだった。
麻帆良湖の湖畔に佇むホテルはまるでヨーロッパの片田舎にある建物を思わせるような佇まいがあり、ここが誰の手によって造られたか見れば分かるような印象である。
ただこの日は明日のパーティーの準備の為に学生や業者が多く出入りしており、必ずしも近寄り難い雰囲気ではない。
「ウチも数えるほどしか来たことないわ。 おじいちゃんと食事に何度か来たくらいや」
駐車場に車を止めてホテル内に入るとこの日からすでに学園の貸し切りらしく、ロビーですらパーティー準備の作業が進められていた。
大学生なんかは何人か顔見知りが居て、横島達は挨拶をしながら料理大会組が使うパーティールームへ向かう。
「おお、噂をすれば……」
「意外と地獄耳ネ」
パーティールームの中ではすでに大勢の大学生と超包子の面々が会場設営の準備をしていた。
横島達が室内に入ると何故か笑い声があがるが、また何かを噂されていたらしい。
「あんまり変な噂を広げるなって」
「大丈夫ネ。 悪い噂じゃないヨ」
大学生達の中心人物はやはり超鈴音であり、横島は変な噂を流すなと釘を刺すが超には軽くかわされてしまう。
部屋自体は二百人は余裕で入りそうな洋室で、普段は結婚式なんかも行う部屋らしい。
基本的にはここを料理大会優勝者が共同で使うが、超鈴音は今年も屋台を一端解体して持ち込み中で組み立ててる最中だった。
「ご苦労さまです。 状況はどうっすか?」
さて木乃香と新堂のスイーツ組の場所では、すでに和風の建築資材などが運び込まれており設営の一歩手間である。
設営をしているのは麻帆良祭や納涼祭でも活躍した大学部の建築サークルだったが、アドバイザーとして大学生の茶道部員も数名来ていた。
横島と木乃香は彼らに差し入れにと持参したサンドイッチとスープを手渡し話を聞くが準備は順調らしい。
「美咲も近衛さんもクリスマスパーティーで和風にするなんて、やっぱり変わってるわね」
基本的な計画はすでに出来ているので横島達は必ずしも確認に来る必要はなかったのだが、世話になる以上は一度は顔を出して差し入れの一つでもしなくてはと二人は来ている。
ただ大学生の茶道部員の女性は、木乃香を見かけるなり声をかけて来て新堂も木乃香も変わっていると笑っていた。
世間一般からすると新堂は当然洋菓子のパティシエであるし、木乃香も洋菓子のパティシエだと見られている。
横島がジャンルを問わない料理人なのは周知の事実だが、今回主役の新堂と木乃香があえて専門分野から少しずらして来たことは話題になってるようだった。
「ウチは老若男女みんなに喜んで貰えるようにしたいって考えただけで、後は新堂先輩のおかげです」
「貴女やっぱりいいわ。 流石は麻帆良のお姫様ってとこかしら? 美咲が気に入る訳よね」
声をかけて来た茶道部員の女性は新堂と顔見知りらしく、何やら事情を知ってる様子である。
木乃香はお世話になった人や来てくれる人に喜んで貰えるようにしたいと当然の理由を語るが、女性はそんな木乃香を姫と呼び気に入ったと口にした。
「お姫様ってなんですか?」
「あら知らないの? 大学部の辺りだと貴女のことみんなお姫様とか姫って呼んでるわよ。 クイーンの後継者だからか、いつの間にか姫って呼ばれてたわね」
しかし木乃香本人は初めて聞いたあだ名らしく、流石に少し困ったような恥ずかしいような微妙な表情を見せる。
体育祭以降はさほど目立ったつもりはないので、まさかそんなあだ名が付いたとは夢にも思わなかったらしい。
いつの間にか新堂の後継者だと言われてることも、もちろん木乃香は初耳である。
この日横島と木乃香は、会場の設営状況の確認をする為に麻帆良ホテルを訪れていた。
「高そうなホテルだな」
そこはやはり一般的な日本らしくないホテルだった。
麻帆良湖の湖畔に佇むホテルはまるでヨーロッパの片田舎にある建物を思わせるような佇まいがあり、ここが誰の手によって造られたか見れば分かるような印象である。
ただこの日は明日のパーティーの準備の為に学生や業者が多く出入りしており、必ずしも近寄り難い雰囲気ではない。
「ウチも数えるほどしか来たことないわ。 おじいちゃんと食事に何度か来たくらいや」
駐車場に車を止めてホテル内に入るとこの日からすでに学園の貸し切りらしく、ロビーですらパーティー準備の作業が進められていた。
大学生なんかは何人か顔見知りが居て、横島達は挨拶をしながら料理大会組が使うパーティールームへ向かう。
「おお、噂をすれば……」
「意外と地獄耳ネ」
パーティールームの中ではすでに大勢の大学生と超包子の面々が会場設営の準備をしていた。
横島達が室内に入ると何故か笑い声があがるが、また何かを噂されていたらしい。
「あんまり変な噂を広げるなって」
「大丈夫ネ。 悪い噂じゃないヨ」
大学生達の中心人物はやはり超鈴音であり、横島は変な噂を流すなと釘を刺すが超には軽くかわされてしまう。
部屋自体は二百人は余裕で入りそうな洋室で、普段は結婚式なんかも行う部屋らしい。
基本的にはここを料理大会優勝者が共同で使うが、超鈴音は今年も屋台を一端解体して持ち込み中で組み立ててる最中だった。
「ご苦労さまです。 状況はどうっすか?」
さて木乃香と新堂のスイーツ組の場所では、すでに和風の建築資材などが運び込まれており設営の一歩手間である。
設営をしているのは麻帆良祭や納涼祭でも活躍した大学部の建築サークルだったが、アドバイザーとして大学生の茶道部員も数名来ていた。
横島と木乃香は彼らに差し入れにと持参したサンドイッチとスープを手渡し話を聞くが準備は順調らしい。
「美咲も近衛さんもクリスマスパーティーで和風にするなんて、やっぱり変わってるわね」
基本的な計画はすでに出来ているので横島達は必ずしも確認に来る必要はなかったのだが、世話になる以上は一度は顔を出して差し入れの一つでもしなくてはと二人は来ている。
ただ大学生の茶道部員の女性は、木乃香を見かけるなり声をかけて来て新堂も木乃香も変わっていると笑っていた。
世間一般からすると新堂は当然洋菓子のパティシエであるし、木乃香も洋菓子のパティシエだと見られている。
横島がジャンルを問わない料理人なのは周知の事実だが、今回主役の新堂と木乃香があえて専門分野から少しずらして来たことは話題になってるようだった。
「ウチは老若男女みんなに喜んで貰えるようにしたいって考えただけで、後は新堂先輩のおかげです」
「貴女やっぱりいいわ。 流石は麻帆良のお姫様ってとこかしら? 美咲が気に入る訳よね」
声をかけて来た茶道部員の女性は新堂と顔見知りらしく、何やら事情を知ってる様子である。
木乃香はお世話になった人や来てくれる人に喜んで貰えるようにしたいと当然の理由を語るが、女性はそんな木乃香を姫と呼び気に入ったと口にした。
「お姫様ってなんですか?」
「あら知らないの? 大学部の辺りだと貴女のことみんなお姫様とか姫って呼んでるわよ。 クイーンの後継者だからか、いつの間にか姫って呼ばれてたわね」
しかし木乃香本人は初めて聞いたあだ名らしく、流石に少し困ったような恥ずかしいような微妙な表情を見せる。
体育祭以降はさほど目立ったつもりはないので、まさかそんなあだ名が付いたとは夢にも思わなかったらしい。
いつの間にか新堂の後継者だと言われてることも、もちろん木乃香は初耳である。