平和な日常~冬~2

「興味のあるなしで言うなら私も興味はないわよ。 それこそ高畑先生のように人生を懸けて知らない人を救う気なんてないもの。 魔法協会に今も所属してるのもそんな家系だったってことと、学園長先生に恩があるからだけだもの」

何処か自虐的にも見える横島に刀子は何故か少しきつい口調になると、自分も魔法世界には興味がないと言い切り魔法協会に加わってる理由を語り出す。


「私は関東と関西の協会しか知らないけど、遠い国やよその世界の平和なんて本気で考えてる人はほとんど居ないわよ。 向こうの人達は力ある者が奉仕するべきだって言うけど、力で何かを変えればまた新たな歪みが生まれるだけだもの」

それは横島を直接批判する訳でも慰める訳でもないが、刀子は横島が考え過ぎだと感じていた。

仮に横島に世界を救う力があっても、それを実行すれば新たな歪みの始まりでしかないと刀子は考えている。

まあ横島や横島が相棒と語る土偶羅が全知全能ならば別だが、刀子から見ると横島達にはそこまでの力はあるようには見えない。


「魔法世界の問題は貴方が抱えるべき問題じゃないわ」

この時刀子は横島が本当に人知を越える遺産を持っているのかもしれないと直感的に感じた。

本当に軽く聞いただけだが、人間が持つには少々荷が重いのなのだと思う。

実際横島は興味がないと言いつつ魔法世界を見捨てることに僅かな抵抗感があるのは確かで、それは紛れもなくごく普通の人間の精神であった。


「そこまで抱えてるつもりはないんですけれどね。 ただ考えとかなきゃいけないことなのは確かなんで」

「一人で考えるのはほどほどにね。 私で良ければいつでも付き合うわよ」

最後の方は若干説教っぽくなった刀子に横島は懐かしさを感じずにはいられなかった。

元々深く考えるタイプではないだけに、昔は令子や小竜姫に怒られたなと思い出してしまう。

そんな横島に刀子はせめて一人で考え過ぎないようにと、釘を刺すことしか今は出来ないが。


「あっ、先生こんばんわ」

「こんばんわ」

結局随分と長い時間話し込んでいた横島と刀子だが、タマモを抱き抱えたさよが店に入って来ると少し重苦しい空気が一変した。


「あら可愛いパジャマね」

「うん、おきにいりなの!」

さよもタマモもすでにパジャマでその上に寒くないようにと上着を一枚羽織っただけだったが、この日のタマモのパジャマは猫の着ぐるみ風パジャマであった。

フード付きのパジャマでフードを被ると着ぐるみっぽくなるパジャマなのだが、ハニワ兵が秋冬用にと作った自信作である。

刀子が思わず可愛いと笑ってしまうほどに似合っており、褒められたタマモも嬉しそうな表情だ。


「二人ともこんな時間にどうしたんだ?」

「お風呂上がりのデザートがなかったので、何か余ってないかなと」

一方の横島は予期せぬことを言って少し微妙な雰囲気にしてしまっただけに、タマモ達が来てホッとしていた。

日頃夜はあまり店に顔を出さない二人が偶数いいタイミングで店に来たことには少し驚いていたが、うっかり二階の冷蔵庫に二人のお風呂上がりのデザートを横島が入れ忘れていたのだ。


「そういやデザート忘れてたな。 今日はグレープフルーツなんてどうだ? ちょうど食べ頃だぞ」

そのまま二人にデザートのリクエストを聞く横島だが、タマモもさよも余り物でいいと言うので食べ頃のグレープフルーツを切って二人に食べさせる。


(この子達が居れば大丈夫そうね)

そして横島を心配していた刀子だが、裏の問題を直接相談は出来ずともタマモやさよが横島にとってかけがえのない存在なのだと改めて感じていた。

まあその分二人の未来も含めて横島はまたいろいろ悩むのだろうが、刀子は横島の近くに自分の居場所が出来たようで正直嬉しかった。

結局この日は木乃香の警護については具体的な話は出来なかったが、危険性が低くなったことは明らかなので今後の警護について考えておくことにする。



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