平和な日常~冬~2

「なんなら一本持って行きますか? でもどうせなら葛葉先生に専用の神通棍を作った方がいいっすかね」

基本的に神鳴流は武器を選ばずとは言うが、それでも実力が拮抗するような相手だと現実的には武器の差が力の差に現れてしまう。

刀子自身も愛用の野太刀があるが、手入れを怠った経験はない。

なんとなく神通棍が気に入った様子の刀子に横島は簡単に持って行っていいと言うが、ただ刀子ほどの実力ならば専用に調整した方がいいかとも考えていた。


「持って行くって、貴重な物じゃないの?」

「まあ確かにこの世界にはない技術ではありますけど、物は自体は異空間の拠点で作った量産品ですしね。 在庫はかなりありましたし作ろうと思えばいくらでも作れますよ」

神通棍を握り手の感触なんかを確かめていた刀子だが、相変わらず次元が違う話と軽い横島に若干複雑そうな表情を見せる。

荒唐無稽な話が本当なのかもと刀子はなんとなく感じるが、同時に未知の技術かもしれない武器を余り物の感覚で簡単に他人にあげる横島には素直に不安だった。


「欲しいとこだけど、実際にこれを使うほどの仕事なんてないのよね」

くれるというなら貰おうかと悩む刀子だが、現実的に神通棍を使うほどの戦闘は刀子の仕事では滅多にない。

間違って第三者の手に渡り技術を盗まれても困ると考えた刀子は、結局もし使う機会があれば借りたいと言って返すことにした。


「それにしても……」

少し名残惜しそうに神通棍を返した刀子は、横島を見ながら頭の整理を始める。

横島の過去も衝撃だったが魔法世界の真相も同じくらいに衝撃的な話だった。

まあナギとメガロの関係があまり良くないのは大戦後に指名手配したこともあり魔法関係者ならば周知の事実なのだが、まさかメガロがアリカ女王を戦争犯罪者に仕立てて国を乗っ取ったとは刀子は考えもしなかった。

正直本当にそこまで腐ってるのか疑問すら感じるほどに。

そもそもメガロの魔法使い達は、例え自分達に都合がいい正義だとしても地球側で多くの人を救ってる事実に変わりはないのだ。


「多分地球側で活動してる魔法使いの大半は善良な魔法使いだと思いますよ。 仮に地位や名声欲しさに人を助けてるとしても。 ただそんな人達を上手く利用する人達も居るんでしょうね」

「怖いわね」

メガロメセンブリアの真の姿に戸惑う刀子に、横島は魔法の国にも光と影があるのだろうと語る。

もちろん刀子も子供ではないのでそんなことは理解しているが、彼女から見てメガロメセンブリアは国を動かす者が最低限の理性を失っているように見えて怖いと感じてしまう。


「俺もどっちかと言えば、そんな連中の側なんですけどね。 縁もゆかりもない人は助けるつもりもないですし」

刀子の怖いという言葉の意味を理解した横島は、少し複雑な表情で自分もそんな連中と同類だと言い切る。


「そんなことは……」

「正直、俺にはもう何が正しいかなんて分からないんですよ」

横島の言葉を刀子は否定するように何かを語り出すが、横島はそんな刀子の言葉を遮るように本音をぽつりと呟く。

その言葉の重みに刀子は言葉が止まったまま続かなくなったが、日頃の横島を見ると刀子にはどうしてもそうは思えない。


「ぶっちゃけ俺は魔法世界の行く末に関しては全く興味がないんです。 世界を救いたいならその世界に住む人達が立ち上がるべきなんだと思いますし。 ただし明日菜ちゃんを犠牲にすることだけは認めませんけど。 例えそれが俺のエゴだとしてもね」

「横島君……」

淡々と問題の根幹に関わる本音を語る横島だが、刀子はそんな横島の本音を聞きこの男を一人にしてはダメなんだと理解した。

過去に何があったのかはやはり想像も出来ないが、本来は優しく暖かいはずの横島の心の一部がまるで凍り付いて悲鳴を上げているようなそんな印象を受ける。

きっと木乃香達は無意識にそんな横島の心の悲鳴が聞こえたのかもしれないと思う。


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