平和な日常~冬~2

「いろいろあって、その世界が滅んだんでここに来たんですよ」

そのまま話は続くが長くなると言った割にはザックリと話を省略した横島は、『いろいろ』という一言で過去を済ませたというか濁してしまった。

その一言がどれだけなのか刀子には想像も付かなかったが、平凡そうに見えてどこか浮世離れしている横島ならば過去に秘密の一つや二つはあると思っていた。

ただそのレベルの桁が違う辺りはどこか横島らしいとは感じているが。


「葛葉先生に俺のつまんない過去を話しても興味ないと思うんで省きますけど、俺は前の世界でちょっとした力というか技術というか遺産を手に入れたんです」

しかし横島は刀子が一番知りたかった自分の過去を省いてしまい、刀子が内心で不満を募らせるが流石に話の腰を折ることはないらしい。

そんな刀子に近右衛門達と同じくアシュタロスの遺産の話をするが、彼女が引っかかたのはもちろん横島が語った本来の継承者の一人である亡くなった横島の恋人の部分である。

女性が苦手というか女性を避けてる横島の過去には当然彼女も興味があるし、その鍵になる元恋人の話が一番聞きたい。


「ここまでが俺の麻帆良に来る前なんですけど、それを頭に入れて協力するに至った訳を話しますね」

一人で淡々と語る横島はどちらかと言えば自身の素性や過去はおまけ程度の認識であり、いよいよ本題だと協力する訳を語り始める。

刀子が困惑というか若干不満げなのは横島も気付いているが、横島は興味のない自身の過去や素性を聞きたくないのかと勘違いしていた。

そして横島は協力するに至った理由、すなわち魔法世界の真相から明日菜の正体まで全部話してしまう。

次々と語られる極秘中の極秘の話に刀子の表情が引き攣ったのは言うまでもない。


「ちょっと、待って!? そんなことまで私に言っていいの?」

話をはじめてから一時間を軽く過ぎた頃になると刀子はようやく口を開くが、あまりに機密の塊の話に自分に話していい話なのか不安になったらしい。


「構いませんよ。 全部、こっちで調べた情報なんで。 それに学園長先生が話すと守秘義務なんか気にしなくちゃダメになりますけど、俺の話なら葛葉先生は余談話として知らないと言えばいいだけですし」

ただ横島は立場上近右衛門が言えなかったことは理解しており、横島の側から話すのならば全てを真偽が不明の余談話で済ませることが出来る。

関東魔法協会の機密を知れば刀子には組織として相応の責任が必要になるが、横島の情報ならばそれをかわせるのだ。

少なくとも横島はそう考えている。


「学園長先生は当然として貴方も意外と腹黒いわね」

正直刀子は聞きたくなかった秘密を山ほど聞かされて複雑な心境だったが、逃げ道を作ってくれた横島には有り難いと思う。

まあ横島の話を受け止めるには今しばらく時間が欲しいが、現実的に刀子は自分が今後横島と近右衛門の繋ぎに使われるのだろうということは理解していた。

そして近右衛門が横島の首に少しでも鈴を付けたいのだということも理解している。


(私が彼に惚れてることを見越した上で繋ぎに使うなんて……)

それを好意的に解釈するならば橋渡し役だが、人知を越える横島に多少なりとも鈴を付けたい思惑が近右衛門に全くないとは刀子は思えなかった。

現実的に横島に惚れてる自分ならば横島も悪い印象を抱くこともないだろうと考えたのは確かだと思う。


「せっかくなんで葛葉先生のサポートもこっちでしますよ。 なんか要望があれば言って下さい」

ただこれが刀子にとって数少ないチャンスであることも確かだった。

木乃香達や美砂達に千鶴と横島の女性関係は複雑だが、裏の繋がりを持つのは自分だけなのでそこならば自分が近付ける数少ないチャンスなのだ。

まあ現実的に木乃香を押しのけて一番にはなれないだろうとは思うが、そこはある意味すでに覚悟していたのでどうでもよかった。

明らかに人としての枠からはみ出している横島ならば、自分も愛されるのではないかと刀子は微かな期待を持ってしまう。

一番でなくていいと考える時点ですでに重症に近い刀子だが、このまま裏と表の狭間で苦労を続けるよりは横島に賭けてみたいと願ってしまう。



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