平和な日常~冬~2

「ホタテはなんの料理にも合うんだよなぁ」

大量のホタテを厨房に持ち込んだ横島は千鶴や木乃香達を始めタマモに美砂達まで見守る中で試しにと一枚殻から剥いてみるが、中身の帆立は大きく色合いもいい貝柱が本当に美味しそうだった。

まずは調理法を決めねばならないが帆立は和食は元より、中華やフレンチよく使う食材であり生でも煮ても焼いてもいい。

せっかくなので一人一枚は刺身にしようかと決まるが後が問題だった。


「とことんシンプルに食うか。 このまま貝焼きにしてバターと醤油で食うのも最高だぞ」

周りの少女達は相変わらずそれぞれが好きな料理を口にしているが、横島はせっかくなのでとことんシンプルに調理しようとの考えを纏めていく。

殻付きの帆立を最大に生かすならば、やはり貝焼きが一番だと思うようだ。

味付けは醤油やバターが基本だが、味噌ベースにしてもいいしハーブバターなんかで洋風にしても美味い。


「貝焼きって、なんかバーベキューみたいね」

帆立をメインにメニューを決めていく横島だが、誰かが貝焼きからバーベキューみたいだと呟くとその表情がピクリと止まる。


「バーベキューやるか? って流石に寒いな」

一瞬このままバーベキューをやろうと言い出しそうになる横島だが、流石にバーベキューをやるような気温ではないし下手なことをして風邪でも引かれたら大変だと思い一応自重したようだ。

何人かの少女も同じくバーベキューもいいなとは思うが、やはり寒い中で準備をしてバーベキューをやるとまでは覚悟が出来ないらしい。


「そんじゃ、始めっか」

結局バーベキューは誰も推進役が出なかったことで自然消滅してしまい、この日の夕食は店内での帆立メインにと決まる。

調理自体はいつもの木乃香とのどかに加えて千鶴も手伝うとのことなので、三人に帆立の殻剥きを教えながら調理を始めていた。


「千鶴ちゃん、なんかあったか?」

そのまま和やかな雰囲気で調理は続くが殻剥きが一通り終わり一息つく頃になると、横島は会話の途切れた隙にふと千鶴の顔を見て意味深な言葉をかける。

その言葉は木乃香とのどかにとって唐突であり驚くが、それでも口を挟む様子はない。

二人から見て横島の言葉はあまりに意味不明だが、こんな時の横島の言葉は意外と真面目な話の時が多いのはよく理解している。


「何かあったように見えますか?」

「少しな」

先程までの和やかな空気が一気に静まり返り千鶴は木乃香達から見るといつもと変わらぬ表情だが、それでも語られた言葉は少し訳ありのようなニュアンスだった。

横島は千鶴を直接見ることはなく調理を続けながら話しているが、千鶴は少し困ったような苦笑いに変わる。


「悪い、女の子に無神経だったな。 また明日菜ちゃんに怒られるよ」

言葉に詰まる千鶴の表情を横島は見てないが、それでもまるで見ているかのように無神経だったと告げて笑いながら謝っていた。

横島は千鶴に迷いや不安の兆しが見えたので少し気になって声をかけたのだが、言えないという空気を感じて素直にお節介だったと謝っている。


「いえ心配してくれるのは嬉しいですよ。 私は人に心配された経験が多くないので」

一方の千鶴は横島に不安を見抜かれたことには、驚きよりも喜びを感じていた。

昔から身体的な成長も早く精神的にも早熟だった千鶴は周りを心配することはあったが、他人に心配されることは極めて少なかった。

実際心配されるようなことは自分で解決出来ていたが、周りと比べて放置されてるようで好きではなかった記憶もある。

横島は木乃香達と同じ感覚で千鶴と付き合っているが、やはりそれは千鶴にとって新鮮であり嬉しいものだった。


「俺の周りで危なっかしいのって、明日菜ちゃんと千鶴ちゃんなんだよなぁ。 木乃香ちゃん達は無理しないしさ」

千鶴の言葉にもお節介だったなと笑っている横島だが、実際のところ横島は周りの少女達で現在危なっかしいと感じてるのは明日菜と千鶴らしい。

木乃香達も美砂達も決して無理はしないし、素直に助けを求めてくるがこっそり抱え込む明日菜と千鶴は日頃から結構気にしているらしい。



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