平和な日常~冬~2

同じ頃千鶴は祖母に会うために那波重工本社を訪れていた。

日頃はあまり会社に来る機会のない千鶴は、祖母がわざわざ会社に呼んだ理由は聞かなかったが間近に迫ったパーティーの件かと考えていた。


「千鶴、横島君のことどう思ってるの?」

祖母の居る会長室に入った千鶴はその場に両親までが揃って居ることに少し驚くが、多少の雑談の後に祖母が語った話題には驚きを通り越して意外な心境になった。

元々千鶴は裕福な故に恋愛についてもそれなりに教育を受けているが、実際に交遊関係を指摘されたことは初めてである。

しかも少し前に祖母である千鶴子が横島にパーティーでのフォローを頼んだこともあり、この時期に何故わざわざ横島を名指しでそのようなことを聞くのかは理解出来なかった。


「……好意は持っています。 今のところは友人としてですが」

祖母や両親が見守る中で千鶴は少し考えた上で現状を冷静に心境を答えるが、それでも内心では今までにないほど動揺してしまう。

那波重工の後継ぎとして千鶴の恋愛や結婚が必ずしも自由には行かないことは理解はしていたが、千鶴はそれを素直に認めたくはなかったし好ましいとも思ってない。

ただ今までは特定の相手が居ないだけに問題になってなかったことは千鶴本人も十分に理解しているが。


「貴女から見た彼はどんな人間かしら?」

「とても優しい人です。 本人に自覚はないようですが寂しがり屋だとも思います。 それに隠してるようですが、底知れぬ凄さがある人でもあります」

好意があると素直に答えた千鶴に両親は少し複雑そうな表情をするものの特に口を挟むことはなく、千鶴子はまるで千鶴を試すように横島について尋ねた。

人を見る目では祖母には敵わない千鶴だが、それでも横島を間近で見て来た時間は明らかに自分が長いとの自負はある。

横島との関わりを反対されたら自分はどう答えるのだろうと高鳴る心臓の鼓動を抑えるように考えるが、さすがに簡単に答えなど出るはずがない。


「母さんもそんな言い方をすると誤解するだろ」

「少し千鶴の本音が聞きたかっただけよ」

恐らく千鶴の緊張や動揺が祖母や両親に伝わっていたのだろう。

流石に可哀相になったのか父である衛が助け舟を出すが、千鶴子は千鶴の本音が聞きたかったと真剣な様子だ。

父の言葉に千鶴は本題が横島との付き合いについて反対することではないと悟り素直にホッとするが、それでも何故祖母が自分の本音を聞きたかったのか分からず不安な様子である。


「いろいろ噂がある人だし私達も母さんも気になるのは確かなんだよ。 別にそれ以上の口出しをするつもりはないから自分で考えて自由にしていい」

少し厳しい千鶴子をフォローするように衛は気になっただけだと語り、その後は普通にパーティーで最低限挨拶して欲しい人物なんかの話に移ったが千鶴は内心では違和感を感じたままだった。



「やはり千鶴は彼に惹かれてるか」

そして千鶴が帰ると千鶴子達三人はなんとも言えない表情になり軽くため息を漏らす。

千鶴が横島に惹かれているのは千鶴子も衛達夫妻も以前から気付いていたが、最早引き返すことが出来ないレベルになりつつあることは少し不安だった。

仮に横島が少し厄介な過去を持つ程度ならば問題にしなかっただろうが、良くも悪くも未知な横島に惹かれる娘には両親としては正直不安がないとは言えないのだろう。


「彼なら千鶴を意図的に傷付けるような真似はしないわ。 ただ問題は……」

一方の千鶴子は単純に横島が千鶴を傷付けるとは考えてはないが、問題は横島が自分の優しさや影響力をあまり理解してないところだと感じていた。

実は最近穂乃香とも会って聞いたが横島の素性や過去はともかくとして、恋愛や男女関係については全然ダメだと聞いていたのである。

あれほど周りの女性を引き付けてどうするのか、千鶴子はそこが心配だった。

ただどちらにしろ横島は今後の麻帆良の鍵を握る可能性が高く、千鶴は望む望まぬに限らず横島と信頼関係を築かねばならない立場にある。

はっきりいえば千鶴子や穂乃香は横島の過去よりも、無意識にハーレム状態にしてる女性関係をどうするかが心配だったのだ。

魔法世界の破滅なんかの情報もある現状でそれはなんとも個人的な問題だが、恋愛関係が壊滅的だという横島を考えると今はそっちの問題の方が心配だった。



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