平和な日常~冬~2

茶道部の部室は本格的とまでは言えなくともきちんとした茶室になっていた。

横島とタマモは多くの少女達をぞろぞろと連れて歩いていたのだが、流石に部室の中にまでは入って来なくて静かになる。

タマモにとって畳の部屋は以前行った農家のおばあちゃん家以来なので、興味津々な様子でキョロキョロと見回したりくんくんと匂いを嗅いだりしていた。


「相変わらず賑やかですね」

そんな横島達が茶道部の部室に入ると、さよ・茶々丸・木乃香・夕映に三年の少女達が何人か揃っていた。

横島とタマモが多数の少女達を連れて歩いていたことは静かな部室の中でもわかったらしく彼女達は笑っているが、横島は相変わらず笑ってごまかすしか出来ないしタマモは友達がいっぱいで嬉しいとしか感じてない。


「ほらタマモ。 ここに座って待ってるんだぞ」

横島は茶道部の少女に促されるままにタマモと共に木乃香達の隣に座るが、タマモはどうやらさよから簡単な作法なんかを聞いてるようで大人しく座る。

まあ興味津々なのは相変わらずなので視線はキョロキョロとあちこちに向いてはいたが。


「パーティーまでもうすぐだけど準備は大丈夫なの?」

「当日の簡易茶室の設営は大学部の方がやって頂けるそうです。 皆さんは当日お茶をたてて頂ければいいだけになってるです」

窓の外や廊下からは部活に励む少女達の声なんかが聞こえていた。

本来の茶室とは違い若干騒がしい環境だがこればっかりは仕方なく、茶道部の先輩に促された夕映は準備の進捗状況なんかを説明する。

本番では本格的な茶道ではなくある程度雰囲気を楽しむ物でいいとなっているが、やはりそれなりの設備は必要になる。

茶釜なんかは当然使いたいし、それも来場者の規模を考えると一つや二つでは足りないのだ。

会場となるのはホテルの小規模なパーティールームで、料理大会優勝組が同じ部屋で料理を振る舞うことになっている。

実は当初は野外で野点でもと考えていたが、雨が降ったらダメだということと季節的に野外は寒いということでボツになっていた。

ちなみに準備に纏わる調整は何故か夕映とのどかが行っている。

もちろん木乃香も丸投げしてる訳ではないが、木乃香は横島達とスイーツ作りに忙しいことで新堂側のスタッフと連携して準備を進めていたのは夕映とのどかであった。


「タマちゃん正座なんてしたことないでしょ。 大丈夫?」

「うん、さよちゃんとれんしゅうしたからだいじょうぶ」

一方タマモは茶道部の先輩と夕映の話を静かに聞いていたが、話が一段落すると注目がタマモに集まっている。

多少キョロキョロしてるもののきちんと正座して静かに座るタマモは、見た目の幼さもあり珍しいのかもしれない。

ただタマモは夜にさよと一緒の時に何度か二人で練習したことがあるらしく、今のところ問題ないようだ。

その後いよいよタマモの元にもお抹茶が振る舞われるが、ごく普通の茶道の抹茶茶碗もタマモが持つと大きく見えてしまい、なんとも微笑ましい光景になっている。

加えて多少ぎこちなさはあるものの作法を一通りきちんと行うタマモには、茶道部の少女達から驚きの声があがった。


「おいしい!」

ごくごくとお茶を飲んだタマモは作法に気をつけながら抹茶茶碗を置くが、最後には普通に美味しいと告げて笑顔を見せてしまう。

それはさよに習った作法とは違うものだったが、紛れもなくタマモの本音であり横島達や茶道部の少女達の笑顔を誘っている。


「あしが……」

そして茶席も後半になる頃になると慣れない正座にタマモは足がしびれてしまったようで、なんとも言えない表情で困った様子になる。


「足を崩していいわよ。 よく頑張ったじゃない」

その表情に我慢出来なかったのか一同はとうとう爆笑してしまい、タマモは意味が分からないと言わんばかりに首を傾げるが足を崩したことでホッとした表情を見せた。


「さどうはたいへんだね」

痺れる足を見ながらタマモはさよや少女達が自分と同じく痺れるのを我慢してると思ったらしく、茶道は大人の飲み方だと少し勘違いしたまま学習していた。



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