平和な日常~冬~2

「刹那が隠したいなら裏の関係者だということは隠してもええけど、他の関係者は多分みんな明かすと思うわ」

戸惑い動揺する刹那に鶴子は現状での可能性を語るが、刹那はその問題に即決出来るほどの覚悟はない。

それよりも何故今なのかという疑問が頭を過ぎっていく。


「私は……」

「答えは今やなくてええよ。 まだ本決まりじゃないことやし。 ただ遅かれ早かれお嬢様が真実を知る日は来るってことは覚えておいてな」

思考が激しく揺れる刹那は何とか答えを出そうとするが、鶴子はそれを遮り答えを今でなくていいと告げる。

現実や真実から逃げてるとも言える刹那だが、鶴子はその過去を思うと一概に覚悟を決めろとは言えなかった。


「簡単な話じゃないのよね。 世の中の常識をひっくり返すようなものだし」

そのまま鶴子と刹那は双方とも無言になるが、刀子は少し苦笑いを浮かべて簡単な話ではないとこぼす。

関西呪術協会の狭い範囲で生きてればまた違ったのだろうが、麻帆良で生活していると何故木乃香に魔法の存在を隠したかは嫌でも理解してしまう。

刀子はあまり詳しい木乃香の事情は知らないが、立場的に難しい木乃香を自由にするには他になかったことは理解している。

ただ何かに焦るように木乃香へ魔法の開示をする穂乃香達には少し不安も感じているが。


「余り物ですけど、よかったらどうぞ」

結局刀子もその一言を最後に無言になってしまい、少し重苦しい空気が三人を包む微妙なタイミングになると横島が余り物のスイーツを三人に持ってくる。

刀子は相変わらず微妙なタイミングで来たなと感じるが、鶴子はそんな横島を興味深げに見つめていた。

ただ横島は別に鶴子達の会話を逐一盗み聞きしていた訳ではないので、ちょうど会話が途切れた隙を見つけて来ただけなのだが。


「見れば見るほど興味深いわ」

そのまま横島は三人の邪魔にならないようにとカウンターに戻っていくが、鶴子は興味深げな笑みを浮かべたまま横島を見送っていた。

初対面で血が騒いで以来横島が気になっていたようだが、相変わらず興味を持ってるらしい。


「一度手合わせをお願い出来ないやろか」

「青山先輩!?」

横島に興味を示してあわよくば手合わせしたいとこぼす鶴子に刀子は少し慌ててしまうが、流石に鶴子も横島に手合わせをして欲しいと直接頼むまではしないらしい。

刀子や木乃香の手間そこは自重するが、戦ってみたいのが本音なのは間違なかったが。


「師範代、あの人は強いのですか?」

「分からへん。 だから手合わせしてみたいんや」

そしてそんな鶴子に刹那は驚きつつも横島が強いのか尋ねるが、鶴子はあっさりとわからないと言い切る。

その言葉には刹那ばかりでなく刀子も驚き、鶴子ですら横島の実力を見抜けないことには信じられない様子だ。


「相手に実力を悟られるのは二流や。 そういう意味では一流なのは間違いない」

驚く二人に血が騒ぐのか興味深げな様子でカウンター席の横島を見つめる鶴子だが、横島がそんな鶴子の視線を感じ寒気を感じたのは言うまでもない。

なんというか肉食獣に狙われたような嫌な視線であり、元々好戦的ではない横島は苦手だった。



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