平和な日常~冬~2

その夜、横島の店には刀子と鶴子と刹那の三名が訪れていた。

日頃は木乃香を避けて横島の店には近寄らない刹那も、この日は木乃香が近衛邸に行って居ないこてと神鳴流の師範代である鶴子に誘われたのが理由で一緒に来ている。


「刹那も元気そうでよかったわ」

「師範代もお元気そうでなによりです」

この日鶴子が刀子と刹那を誘ったのは特に深い理由などなく、同じ神鳴流の同門として鶴子が刹那の現状を気にかけてるが故にであった。

元々刹那を神鳴流剣士として育てたのは鶴子であり、その行く末を人一倍心配していたのも彼女である。

刀子から最近の刹那の様子を聞いた鶴子は、せめて一緒に食事でもと考えたのは当然だろう。


「学校はどうや? 楽しんでる? 困ったことがあれば言うてな」

「はい、楽しませて頂いてます」

そんな鶴子だが刹那に対しては母親のような姉のような態度であり、刹那もそれを素直に受け入れていた。

元々神鳴流は同門の仲間の絆が強いのだが、鶴子は特に仲間への想いが強い。

特に最近は現代にそぐわやくなった古くからの慣例や掟を止めさせたりして、時代に合うようにと改革を行ってるのも実は彼女である。

まだ免許皆伝前の刹那の麻帆良行きを後押ししたのも彼女であり、神鳴流史上で最も有数の実力はがあるが異端児だと言われることもあるが。


「そうか。 それはよかったわ。 剣の修行も大切やけど学生時代は学ぶべきことが他にも多いもんな」

さて一方の刹那は鶴子に学校生活を尋ねられるとすぐに楽しませて頂いてると答えたが、それは彼女の本音でもあり実際彼女は辛いと考えてはいない。

賑やかな学校とクラスに刹那は一歩距離を置いてはいるが、あの雰囲気を楽しんでるのは事実であるし木乃香を影ながら守れる生活にも満足してるつもりなのだ。

まあ鶴子は刹那と木乃香の関係を刀子から聞いて知ってはいるが、刹那自身が寂しさは感じても現状に一応満足してるならばこの場であえて指摘するまでもなかった。


「そうそう。 これはまだ本決まりじゃないんやけど、近いうちにお嬢様に裏の存在を教える可能性があるんや。 もしそうなったら刹那はどないしたい?」

三人の食事は和やかな雰囲気のまま続くが、鶴子は食事が終盤に差し掛かると少し表情を引き締めて木乃香への魔法の存在を教えるかもしれないことを刹那に話して聞かせる。

実は昨夜の横島の影響で今日の近右衛門と穂乃香はそれどころではなかったが、流石に鶴子にもまだその辺りの情報は伝わってないようだ。

それと刹那への説明に関しては、穂乃香と近右衛門にも事前に了解を取ってるので独断ではない。

ただし今日ではないが。

まさか鶴子も横島の影響で木乃香へ魔法の存在を教える件が止まってしまったことまでは知らないらしい。


「おっ、お嬢様に裏のことを教えるのですか!?」

「すぐにかは分からへんけど、結局は遅いか早いかの問題や。 お嬢様の親戚縁者はみんな裏の関係者やから、いつまでも隠したままで居られへんのや」

久しぶりに鶴子に会い笑顔も見せていた刹那だが、木乃香へ魔法の情報開示をする件を聞くと顔色を悪くして動揺してしまう。

元々刹那が木乃香を避けてる理由は本音と建前では違っており、建前では魔法を隠すことが理由として使ってもいた。

ただ本音では自分の正体へのコンプレックスや、木乃香にだけは知られたくないとの想いなんかもあり複雑である。

正直事前の根回しが必要なメンバーで一番厄介というかデリケートなのは刹那であり、対応は育ての親とも言える鶴子に一任されていた。




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