平和な日常~冬~2

さてこの日も夕方になると少女達で店は賑わうが、横島は木乃香と一緒に例のパーティーに出すスイーツの試作をしていた。

一昨日には茶室でも作ろうかと話していたこともあり、和のテイストのあるスイーツを作ろうとなったのだ。

パーティーまでは後一週間までに迫っており、そろそろきちんとしたメニューや方針を決めなければならない時期である。


「なんかこうグッと来るものがないな」

今のところ決まっているのはスイーツの大きさに関してだけであり、一般的なスイーツの半分から三分の一程度に抑える方針だった。

茶室に関しては茶道部に声をかけてみてはいるが、急な話なのでまだ決まってはいない。

ただスイーツだけでなく飲み物も重要視する方針はある程度決まっており、茶道部がダメなら紅茶やコーヒーを主体にしようかという話もある。

そんな訳で横島と木乃香は小さなスイーツを何種類か作っているが、どうも横島はしっとり来ないらしい。


「美味しいし、十分ええと思うけど」

現時点で作る予定なのはバタークリームのケーキが最有力だが、別に一種類だけ作らなければならない訳ではないので大福や和菓子なんかの可能性も十分にある。

木乃香は洋菓子のケーキに和菓子の大福なんかを一種類ずつ作ればいいのではと考えているので、現状の候補にある試作スイーツに満足してるが横島は何かが足りないという感じだった。

一言で言えばあっと驚くようなインパクトが足りないのだろうが、そもそもの問題としてインパクトを追求し過ぎるのはあまりいいことばかりではない。

あまり面白みがないが定番の味が一番評価されやすいのが現実であり、一般的でない斬新なアイデアなんかを使うと好き嫌いが分かれるだろう。

横島もそれを理解してるが故に悩んでいた。


「マスター、遊ぼう!」

珍しく真面目に考えていた横島だったがそれも長くは続かずに、厨房に入って来た桜子に抱き着かれていた。

どうやら暇を持て余していたらしい。


「男に軽々しく抱き着いたらダメだって言っただろうが」

「マスターにしかしてないから大丈夫!」

「俺も男なんだって……」

桜子の登場により厨房の雰囲気は一気に変わるが、横島は抱き着いている桜子を口では注意してるが表情は割と嬉しそうである。

一応困った様子にも見えなくもないが、どちらかと言えば嬉しさの方が多い様子だった。


「私はマスターの為にやってるんだよ」

「確かに横島さんが女の人に慣れるにはちょうどええかも」

麻帆良に来てから比較的モテる横島だが、流石に露骨に抱き着いたりするのはタマモと桜子だけである。

同じく横島に積極的な美砂でさえ、あからさまに抱き着くことまではしないので彼女がいかに変わってるかと言えるだろう。

ただ桜子いわく女の人が苦手な横島の訓練らしい。

流石に明日菜か夕映がその場に居ると止めるが、木乃香は最近見慣れた光景だからか割と受け入れて笑っていた。


「だから俺は女が苦手じゃないんだって、ってか胸が……」

「わたしもやる!」

相変わらず女の子には甘く特に積極的な女の子への対応が全く出来ない横島は困ったような幸せそうな表情を見せていたが、そこにタマモが現れると桜子に対抗してか反対側から横島に抱き着いてしまう。

結局横島は木乃香が止めるまで桜子とタマモに抱き着かれたままだった。



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