平和な日常~冬~2

同じ頃近右衛門と穂乃香は芦優太郎こと土偶羅との会談を始めようとしていた。

朝一で土偶羅の側から近右衛門へアポを取る連絡を入れており、近右衛門は午前中に即座に会うすることを決めている。


「やはり横島君は来んのか」

「任せると言われている。 仲良くやってくれともな」

老人姿の芦優太郎と近右衛門は見た目だけは同年代に見えるが、当然初対面であり近右衛門は出来れば横島も来て欲しかったようだが横島は土偶羅と近右衛門に完全に任せて来てなかった。

正直近右衛門は目の前の人物をどう位置付ければいいかすら定まってなく、若干困ったような表情である。


「最初にアーウェルンクスの件は礼を言わせてもらう。 あの件は完全に出し抜かれるところだったわい」

二人で居る場合は基本的に穂乃香はあまり口を挟まないので、微妙な空気の中で近右衛門はまずは土偶羅との取っ掛かりとしてフェイトの一件のお礼を伝えることから入った。


「気にすることはない、決断したのはあくまでも横島だ。 それと最初に横島が言わなかったことを説明するが、本来のわしは横島の意思の元に動くただの道具に過ぎない。 従って与えられた権限で出来る範囲の協力しか出来ないことは覚えておいて欲しい」

近右衛門は横島はともかく土偶羅に関しては昨日横島から聞いた以上の情報はないので、扱いに関しては横島以上に慎重にならざる負えない。

魔王の遺産の管理者としか横島が説明してないので、内心ではハラハラしながらの対応になるのは当然だろう。

そんな近右衛門達の心境を理解する土偶羅は、最初に横島と自分の明確な立場の説明から入る。


「うむ、横島君のニュアンスとは若干違うのう。 横島君は貴方を仲間というか同格の相棒のように言っておったが」

「あれはそういう男だ。 ただ現実問題としての権限の全ては横島にある。 人間のコンピュータが勝手なことをしないのと基本的には同じだ。 尤もほとんど任されてるがな」

土偶羅が語る横島と自身の立場と権限の在り方は近右衛門達も知りたかった一つだが、同時に近右衛門は任されていると語る土偶羅の言葉に間違いなく横島のやり方だと確信した。

良くも悪くも出来る人に丸投げするのは今までの横島の行動から明らかであり、結局横島が裏の問題を丸投げしていたのが土偶羅なのだろうとの答えに至る。


「まあわしの本音を言わせて貰えば、貴方達が横島を受け入れてくれた件は正直ホッとしている。 横島は人として生きることを望んでいたからな」

土偶羅と横島の関係をなんとなく理解し始めた近右衛門達に、土偶羅は続けて少し表情を緩めると自身の本音を語り始めた。

数多の経験を重ねて一つの世界すら終わらせた横島がたどり着いたのは、結局は人として生きる道だったのだ。

かつて神魔に絶望したアシュタロスは死を願い行動を起こしたが、同じく神魔に絶望した横島は人として生きる道を選んだ。

横島がアシュタロスの遺産である異空間アジトを受け継いだのは偶然であったが、横島とアシュタロスは似てないようで似てると土偶羅は常々感じている。

誰よりも横島を知り支えて来た土偶羅は、苦しみながらも努力を続けて横島ですら受け入れた麻帆良の街や近右衛門達に悪い印象は抱いてなかった。



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