平和な日常~冬~2

さて近衛邸を後にした横島が自宅に戻ると、リビングにはハニワ兵と土偶羅の本体が居た。


「結局、全部話してしまったのだな」

「仕方ないだろうが。 向こうはそれ相応の覚悟を見せたんだから」

ソファーに座り一息ついた横島に、土偶羅は多少呆れた表情も見せたが非難してる様子ではない。

正直アッサリと負けを認めて手札を全部晒した横島のやり方は利口とは言えないが、これから本当に味方になるのならば必ずしも悪い手ではない。


「まあ、協力しなければ今後が難しいのは確かだったがな。 魔法世界の崩壊に備えるには魔法協会に食い込むしかない」

元々魔法協会に食い込むのは土偶羅も進めていた計画の一つであり、芦コーポレーションもその一翼を担っている。

何より最短で十年後には魔法世界が崩壊してしまい、その混乱は地球にも大きな影響を与えるとの予測が出ていた。

土偶羅の本音としてはこのまま何年も時間をかけて二つの魔法協会を統合するしないのレベルではダメだというのが基本であり、実は東西の統合の促進させる計画も密かに進めていた。

今夜の横島と近右衛門達の会談の結果は、そんなまどろっこしい計画をする必要がなくなり直接関与出来るいい機会でもある。


「十年だもんな。 タマモが学校に行けば中学生になるくらいか」

ぶっちゃけ横島と土偶羅には完全なる世界への危機感はあまりない。

そもそも横島には他人の意見を全く聞かずに力だけで自分達の理想と意見をごり押しする連中を相手に、話し合いで解決しようなどという考えは全くないのだ。

敵対してきたら容赦しないが、関わらない限りは放置に限るというのが基本的なスタンスである。

そしてそんな連中よりは、形だけでも話し合いをしようとするメガロメセンブリアの方が数段厄介だった。

十年後にはタマモが中学生になるくらいかなと考えた横島は、タマモの平和な学生生活を魔法世界の連中が脅かすかと思うと言葉にはしないが苛立ちを感じてしまう。


「向こうでの食料生産再開も考えねばならんな。 長い年月で魔法世界には地球の魔力をかなり持っていかれてるから、地球の環境悪化や不安定化に影響が出るのだ。 それとダミーの惑星開発も早めねばならんか」

近右衛門達に受け入れられたことは横島にとっても土偶羅にとってもトータルではプラスであったが、魔法世界の問題は歴史の裏に隠された人の業が重なった問題でもあった。

そもそも魔法世界はその世界が魔法で造られており、当然それを維持するには膨大な魔力が必要になる。

その魔力の大部分は魔法世界内で循環させるはずなのだが、様々な理由から不足する魔力は地球から供給されるようになっていた。

仮に魔法世界がいくらか延命しても根本的なシステムを改善しない限りは、本来あるべき地球の魔力を持っていかれるだけなので地球に対する影響が少なくないとの事情がある。

尤もこの件に関しては近右衛門達などの地球側魔法協会は元より地球側国家も知らされてないメガロメセンブリアの超極秘事項であったが。

土偶羅はこの先の未来も世界は落ち着かないだろうと予測しており、平和な麻帆良の町を守るには魔法協会に早急に力を付けることが必要だと考えていた。

それにどんなに範囲を狭めても日本一国くらいは安定させないと、魔法協会の手に負えなくなる。

結果土偶羅は魔法協会を表に出し、影から必要な準備を進めるべきかと考えを巡らせていった。


「細かいことは任せるよ。 せっかく味方が増えたんだし上手く協力してやってくれ」

ただ横島自身は相変わらず細かい問題は土偶羅に丸投げする気満々であり、近右衛門達と上手くやってくれと早くも丸投げしていた。



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