平和な日常~冬~2
近衛邸は高さ二メートルほどの塀に囲まれた屋敷だった。
入口は正面と裏口のみであり横島は正面入口から車で入ったが、警備員にきちんと止められて確認してから入っている。
麻帆良学園の学園長の公邸なので当然立派な屋敷ではあるが、さほど派手さはなく機能的な屋敷という感じか。
防犯体制に関してもかなり厳重であり、取り分け侵入者阻止用の結界はこの世界では屈指の強力さだろう。
「どうも、お待たせしました」
屋敷に到着した横島を出迎えたのは、なんと穂乃香自身であった。
どうも時間的に屋敷内には家政婦やメイドの類は居ないようで、屋敷に居るのは警備員だけのようだ。
「広いお宅っすね」
「老人の一人暮らしには向かないわよね。 でも私生活に使う部分は限られてるから」
屋敷の中もあまり豪華という感じはなく機能的であるが、同時に広い屋敷に人の気配がないのは寂しくもあった。
ただ地上の屋敷の大半は麻帆良学園の学園長の公邸なので、会議室があったりパーティールームがあったりと普段使わない部屋も多いらしい。
広い屋敷を物珍しげに見る横島に穂乃香は少しだけ複雑そうな表情を浮かべる。
年老いた父を広い屋敷に一人で住ませてる気分はあまり良くないのだろう。
一般人からすると羨ましい限りではあるが、当人達の立場になると複雑なのかもしれない。
「わざわざ呼び付けてすまんのう」
横島が案内されたのは日頃近右衛門が生活しているプライベートの応接室だったが、屋敷の中でもここはよく使われるようで生活感があった。
そんな部屋で待っていたのは近右衛門一人であり、穂乃香と横島を加えて三人しか居ない。
どこか緊張感が伝わるような静けさが部屋を支配しているが、テーブルにはすでにお酒やつまみが用意されている。
「構いませんよ。 暇人ですから」
手土産にと近右衛門好みの日本酒と穂乃香が好きそうなスイーツを持参した横島だったが、近右衛門も穂乃香も表面上はいつも通りだった。
「本題に入る前に一つ確認しておきたいことがある。 もし君が今までと同じくわしらと距離を置きたいと考えているならば素直に言ってくれ。 これから話す内容は必ずしも君が知る必要がない話であり、仮に知れば君にも相応の責任を持ってもらわねば困る。 ただ……、可能ならば助けて欲しい」
近右衛門と穂乃香は横島の正面に座り三人はとりあえず酒を一口飲むと、近右衛門が意を決したように話し始める。
言葉を選びながら慎重に語る近右衛門ではあるが、それは年下で得体の知れぬ相手に対しては最上級の気遣いに近いだろう。
最初から選択権を自身に委ねられてしまった横島は、これは交渉と呼べるモノではないなと感じ驚いていた。
正直横島としては流石にもう少し探りを入れてくると思ったし、受け取り方によっては近右衛門自身が自分の力不足を真っ先に暴露したとも受け取られかねない。
『助けて欲しい』と言った最後の一言が紛れも無い近右衛門と穂乃香の本音であり、それは権力者が上から目線で助けて欲しいと言ったと言うよりは同格な相手に頼むような印象であった。
近右衛門にとってその一言は、人生を左右するほどの覚悟の賭なのかもしれない。
いかにして横島と信頼関係を築き仲間に引き込むか。
それは決して歴史には残らぬ運命の会談の静かな始まりであった。
入口は正面と裏口のみであり横島は正面入口から車で入ったが、警備員にきちんと止められて確認してから入っている。
麻帆良学園の学園長の公邸なので当然立派な屋敷ではあるが、さほど派手さはなく機能的な屋敷という感じか。
防犯体制に関してもかなり厳重であり、取り分け侵入者阻止用の結界はこの世界では屈指の強力さだろう。
「どうも、お待たせしました」
屋敷に到着した横島を出迎えたのは、なんと穂乃香自身であった。
どうも時間的に屋敷内には家政婦やメイドの類は居ないようで、屋敷に居るのは警備員だけのようだ。
「広いお宅っすね」
「老人の一人暮らしには向かないわよね。 でも私生活に使う部分は限られてるから」
屋敷の中もあまり豪華という感じはなく機能的であるが、同時に広い屋敷に人の気配がないのは寂しくもあった。
ただ地上の屋敷の大半は麻帆良学園の学園長の公邸なので、会議室があったりパーティールームがあったりと普段使わない部屋も多いらしい。
広い屋敷を物珍しげに見る横島に穂乃香は少しだけ複雑そうな表情を浮かべる。
年老いた父を広い屋敷に一人で住ませてる気分はあまり良くないのだろう。
一般人からすると羨ましい限りではあるが、当人達の立場になると複雑なのかもしれない。
「わざわざ呼び付けてすまんのう」
横島が案内されたのは日頃近右衛門が生活しているプライベートの応接室だったが、屋敷の中でもここはよく使われるようで生活感があった。
そんな部屋で待っていたのは近右衛門一人であり、穂乃香と横島を加えて三人しか居ない。
どこか緊張感が伝わるような静けさが部屋を支配しているが、テーブルにはすでにお酒やつまみが用意されている。
「構いませんよ。 暇人ですから」
手土産にと近右衛門好みの日本酒と穂乃香が好きそうなスイーツを持参した横島だったが、近右衛門も穂乃香も表面上はいつも通りだった。
「本題に入る前に一つ確認しておきたいことがある。 もし君が今までと同じくわしらと距離を置きたいと考えているならば素直に言ってくれ。 これから話す内容は必ずしも君が知る必要がない話であり、仮に知れば君にも相応の責任を持ってもらわねば困る。 ただ……、可能ならば助けて欲しい」
近右衛門と穂乃香は横島の正面に座り三人はとりあえず酒を一口飲むと、近右衛門が意を決したように話し始める。
言葉を選びながら慎重に語る近右衛門ではあるが、それは年下で得体の知れぬ相手に対しては最上級の気遣いに近いだろう。
最初から選択権を自身に委ねられてしまった横島は、これは交渉と呼べるモノではないなと感じ驚いていた。
正直横島としては流石にもう少し探りを入れてくると思ったし、受け取り方によっては近右衛門自身が自分の力不足を真っ先に暴露したとも受け取られかねない。
『助けて欲しい』と言った最後の一言が紛れも無い近右衛門と穂乃香の本音であり、それは権力者が上から目線で助けて欲しいと言ったと言うよりは同格な相手に頼むような印象であった。
近右衛門にとってその一言は、人生を左右するほどの覚悟の賭なのかもしれない。
いかにして横島と信頼関係を築き仲間に引き込むか。
それは決して歴史には残らぬ運命の会談の静かな始まりであった。