平和な日常~冬~2
満面の笑顔でハンバーグを頬張るタマモを坂本夫妻は嬉しそうに見つめていた。
幼いタマモにとってはただの一回の食事でしかないかもしれないが、夫妻にとって未来ある少女に美味しそうに食べて貰えることが本当に嬉しく感じる。
「今日の報酬です。 もしよかったらまたお願いします」
そんな楽しい食事が終わるといよいよ別れの時間になる。
横島は坂本夫妻への報酬を夕方以降の売り上げから換算して常識の範囲内で決めていた。
坂本夫妻の夫は少し間が空き報酬を受け取ろうとするが、横島がどさくさに紛れて次の話を持ち出すと流石に悩むのか手が止まる。
「麻帆良亭は私達が悩みに悩んで終わらせたんだがな」
「無神経なのは昔からよく怒られてますよ。 もちろん答えはいつでも構いません。 また気が向いた時にいつでも来てくれればいいです」
あまり緊張感のない横島の言葉に空気が一気に引き締まるのを周りの木乃香達や刀子達は感じた。
一言で言えば横島本人が語るように無神経であり、調子に乗るなと怒り出してもおかしくはない。
坂本夫妻の半世紀近くの苦労をまるで理解してないような軽さが横島にあるのも否めないだろう。
「本当に無神経な言葉だ。 ただし君の言葉をそのまま受け取るならな」
夫の表情が真剣になったことで木乃香達と刀子はハラハラとした表情になるが、夫は何故か微かな笑みを浮かべると意味深な言葉で返していた。
「君は味覚も嗅覚もそして勘も良すぎる。 それは君の武器なのだろうが欠点でもある。 老い先短い年寄りなど放っておけばいいものを」
意味深な言葉に対し横島は特に反応もないまま夫は更に言葉を続けるが、彼はすでに横島の特徴を正確に掴んでいる。
初対面の僅かな時間一緒に料理を作っただけで、夫はそこまで見抜いてしまったようだ。
「…………具体的な話は日を改めよう。 今度はきちんと仕込みからしたいしな」
無言の横島や木乃香達を見つめた夫は横に居る妻を最後に見るが、妻は夫に全てを任せると言わんばかりに笑みを浮かべているだけである。
最終的に夫は横島に根負けしたように決断すると、この日の報酬を受け取った。
正直その決断は周りが考えてる以上に重い決断であり、夫は即決したようにも見えるが本当に悩んだ上での決断である。
「ばいばい、またきてね」
その後坂本夫妻は店を後にするが、笑顔で『またきてね』と言うタマモに夫妻はまた来るからと約束して帰っていく。
「不思議なもんだな」
「ええ」
夫妻にとって麻帆良は故郷であり店は実家のようなものだ。
一度は終わりを決断し手放した故郷や実家に、まるで引き戻されたようなそんな不思議な感覚に襲われている。
何度か振り返ると離れていく夫妻が遠くなるまで見送る横島達に、夫妻がお互いの顔を見合わせて笑ってしまったのも無理はない。
「結局聞けませんでしたね」
「別に構わんさ」
十ヶ月ぶりの麻帆良の街をゆっくりと歩く夫妻は、やはり自分達はこの街が好きなのだと心から思った。
そして何故横島が柿の木のことを知っていたのかだけは聞けなかったと気付くが、それは聞かなくてもいいかなと感じる。
確かにあの店も柿の木も自分達夫妻を待っていたのだと夫妻は感じたし、何より麻帆良亭という一つの終わりがマホラカフェという麻帆良亭を継ぐ一つの始まりに繋がったということが理解出来ただけでよかった。
自分達の麻帆良亭は確かにマホラカフェの中に生きている。
そして自分達が果たせなかった理想が密かに実現していたことが何より嬉しい。
「少し食べ歩きでもしてみようか?」
「それもいいですね」
その後あの日と同じく東京行きの電車に揺られる夫妻は、あの日と同じくこれからの話を口にした。
ただあの日と今日では夫妻の表情はまるで違う。
まだまだ自分達にはやるべきことがあると料理人としての情熱を再燃させた夫を妻は本当に嬉しそうに見つめていた。
幼いタマモにとってはただの一回の食事でしかないかもしれないが、夫妻にとって未来ある少女に美味しそうに食べて貰えることが本当に嬉しく感じる。
「今日の報酬です。 もしよかったらまたお願いします」
そんな楽しい食事が終わるといよいよ別れの時間になる。
横島は坂本夫妻への報酬を夕方以降の売り上げから換算して常識の範囲内で決めていた。
坂本夫妻の夫は少し間が空き報酬を受け取ろうとするが、横島がどさくさに紛れて次の話を持ち出すと流石に悩むのか手が止まる。
「麻帆良亭は私達が悩みに悩んで終わらせたんだがな」
「無神経なのは昔からよく怒られてますよ。 もちろん答えはいつでも構いません。 また気が向いた時にいつでも来てくれればいいです」
あまり緊張感のない横島の言葉に空気が一気に引き締まるのを周りの木乃香達や刀子達は感じた。
一言で言えば横島本人が語るように無神経であり、調子に乗るなと怒り出してもおかしくはない。
坂本夫妻の半世紀近くの苦労をまるで理解してないような軽さが横島にあるのも否めないだろう。
「本当に無神経な言葉だ。 ただし君の言葉をそのまま受け取るならな」
夫の表情が真剣になったことで木乃香達と刀子はハラハラとした表情になるが、夫は何故か微かな笑みを浮かべると意味深な言葉で返していた。
「君は味覚も嗅覚もそして勘も良すぎる。 それは君の武器なのだろうが欠点でもある。 老い先短い年寄りなど放っておけばいいものを」
意味深な言葉に対し横島は特に反応もないまま夫は更に言葉を続けるが、彼はすでに横島の特徴を正確に掴んでいる。
初対面の僅かな時間一緒に料理を作っただけで、夫はそこまで見抜いてしまったようだ。
「…………具体的な話は日を改めよう。 今度はきちんと仕込みからしたいしな」
無言の横島や木乃香達を見つめた夫は横に居る妻を最後に見るが、妻は夫に全てを任せると言わんばかりに笑みを浮かべているだけである。
最終的に夫は横島に根負けしたように決断すると、この日の報酬を受け取った。
正直その決断は周りが考えてる以上に重い決断であり、夫は即決したようにも見えるが本当に悩んだ上での決断である。
「ばいばい、またきてね」
その後坂本夫妻は店を後にするが、笑顔で『またきてね』と言うタマモに夫妻はまた来るからと約束して帰っていく。
「不思議なもんだな」
「ええ」
夫妻にとって麻帆良は故郷であり店は実家のようなものだ。
一度は終わりを決断し手放した故郷や実家に、まるで引き戻されたようなそんな不思議な感覚に襲われている。
何度か振り返ると離れていく夫妻が遠くなるまで見送る横島達に、夫妻がお互いの顔を見合わせて笑ってしまったのも無理はない。
「結局聞けませんでしたね」
「別に構わんさ」
十ヶ月ぶりの麻帆良の街をゆっくりと歩く夫妻は、やはり自分達はこの街が好きなのだと心から思った。
そして何故横島が柿の木のことを知っていたのかだけは聞けなかったと気付くが、それは聞かなくてもいいかなと感じる。
確かにあの店も柿の木も自分達夫妻を待っていたのだと夫妻は感じたし、何より麻帆良亭という一つの終わりがマホラカフェという麻帆良亭を継ぐ一つの始まりに繋がったということが理解出来ただけでよかった。
自分達の麻帆良亭は確かにマホラカフェの中に生きている。
そして自分達が果たせなかった理想が密かに実現していたことが何より嬉しい。
「少し食べ歩きでもしてみようか?」
「それもいいですね」
その後あの日と同じく東京行きの電車に揺られる夫妻は、あの日と同じくこれからの話を口にした。
ただあの日と今日では夫妻の表情はまるで違う。
まだまだ自分達にはやるべきことがあると料理人としての情熱を再燃させた夫を妻は本当に嬉しそうに見つめていた。