そのまま時間は過ぎて夜の十時を回った頃になると、流石に中高生の客は全て居なくなり大学生以上の大人の客だけになっていた。


「皆さん、ご迷惑をかけてごめんなさいね」

そして店内のフロアでは何故か坂本夫妻の妻と刀子と鶴子と新堂の三名が働いている。

妻は先程からよく知らない彼女達に恐縮しているが、当の本人達も突然のことに少し苦笑いを浮かべていた。


「労働基準法は考えてなかったな～」

さて何故刀子と新堂が店内で働いているかと言えば、横島達も坂本夫妻も労働基準法を全く考えてなかったからである。

厨房で働く木乃香はともかく、深夜までフロアで中学生を働かせるのは流石にまずかった。

しかもそれに気付いたのが店に来ていた鶴子と来ていた刀子だった為に、その場に居た刀子と噂を聞き付けて食事に来ていた新堂に急遽ウエイトレスを頼んだら何故か一緒に居た鶴子も手伝う流れになっていたのである。

刀子は若干葛藤があったようだが、鶴子と新堂は割とノリノリで引き受けていたが。


「横島さんって、やっぱりどっか抜けてるのよね」

「法律を考えてなかったとは……、猛省せねばなりません」

結局刀子達にフロアを頼みタマモとさよはタマモがそろそろ眠そうだったので二階に戻り、千鶴と夏美とハルナも流石に遅くなったので寮に帰している。

横島は木乃香達四人も一緒に帰そうとしたが、彼女達は最後まで見届けたいからとまだ厨房で残っていた。

尤も夕映は横島と同じく労働基準法を忘れていたことを反省しているが。


「先輩楽しそうですね？」

「喫茶店のウエイトレスって、一度やってみたかったんやわ。　可愛い制服があればもっと良かったんやけど」

一方フロアではノリノリで楽しそうな鶴子と新堂に対して刀子は、若干恥ずかしい様子でノリノリな鶴子を羨ましそうに見ていた。

教師としての立場もあり素直に喜べない刀子に対し、鶴子などは一度やってみたかったと嬉しそうなのだ。

というかフロアの人手が足りなくなり困った横島が他に頼る人もいなく刀子に手伝いを頼むと、何故か鶴子が代わりにやると返事をしてしまい一緒に手伝い始めたのだから刀子が一番ビックリしている。

ちなみにこの時の刀子・鶴子・新堂のエプロン姿の写メが一部の大学生の手により学生達に流れることになり、後日また根も葉も無い噂がいろいろ広がるが今更なことだった。


「三人ともめんこいのう。　孫の嫁に来んか？」

「いやいっそワシの嫁にならんか？」

そんな刀子達が働き始めてしばらくすると流石に行列が出来るほどの混雑が収まり、店内では麻帆良亭の元常連達の同窓会のようになっていた。

昔懐かしい味に気分も良くなると、ウエイトレスをしている刀子達に絡む連中も現れる。

そんな年配者達を割と上手くかわす鶴子と新堂に対し、刀子はやはり不器用であり困った表情になり戸惑ってしまう。


「あらあら、若い人を困らせたらダメですよ」

「それなら女将さんが嫁に来てくれるか？」

「私は夫が居ますしもう年ですよ」

この日はお酒は出してなかったのだがまるで酒が入ったように盛り上がる常連達は若干ハメを外し気味だが、坂本夫妻の妻は常連達から刀子を守ったり話に付き合ったりと慣れた様子で客達の相手をしていた。


「お互い年を取ったもんな」

「麻帆良亭が無くなったと後で知ってショックだったよ」

結局その後も店内では元常連達が時間が過ぎるのも忘れて昔話に花を咲かせることになる。