平和な日常~冬~2

「おお、凄い行列じゃな」

「……えっ!?」

「かっ……」

その頃店の外の行列には先程話し合いをしていた雪広清十郎達に近右衛門を加えた六人が、普通に行列の最後尾に並んでいた。

すぐ前に居たのは年配のサラリーマンのようだが、そのメンバーに驚きまるでこの世のモノではないモノを見たように驚き固まってしまう。


「かっ……会長と皆様、よろしければお先にどうぞ」

「ありがとう、だが気持ちだけ貰っておく。 みんなが並ぶのにわしらが先に行く訳にはいかんからな」

どうもサラリーマンは雪広グループの社員らしく緊張した面持ちで列を譲ろうとするが、清十郎は人の上に立つ者の見本のような解答で不要だと告げた。

まあ前のサラリーマン達からすると自分達の後ろに社長や会長が居るとなると落ち着かないので先に行ってくれた方が気が楽になるのだが、本人達が拒否をする以上は仕方ない。


「行列に並ぶなんていつ以来かしら?」

「わしはよく並んどるよ。 美味いラーメン屋なんかは混むからのう」

時間的に学生の割合が減って来ており、清十郎達の周りはサラリーマンや年配者が増えていた。

千鶴子は随分長いこと行列に並ぶ経験をしてないらしく並ぶこと自体が楽しそうだが、清十郎は相変わらず一般人に混じって生活をするのが好きらしく普通に行列に並ぶこともあるらしい。

最近はラーメンがマイブームらしく美味いラーメン屋を見つけては普通に行列に並んで食べてるようだ。


「あっ……」

そして彼らが並んで十分ほど過ぎた頃には明日菜が待ち時間やメニューの説明に外に出てくるが、流石に明日菜も一行のメンバーを見て固まってしまった。

そもそも麻帆良のVIPが一応に揃って普通に並ぶとは誰も思わないし、電話一本入れたら特別扱いにしても不思議ではない。

というか前後に並ぶ人達はなんで普通に並んでるのだろうと逆に不思議そうだったが。


「えっと、待ち時間一時間ほどですけどいいですか?」

清十郎達を見てしばし固まった明日菜だが、彼女は普通に他の客と同じ説明をして了解を得ると店に戻っていく。

周りに並ぶ客はようやく特別扱いになるのかと少し興味ありげに明日菜を見ていたが、そもそも明日菜は近右衛門や清十郎達とは付き合いが長いので彼らがこんな場面で特別扱いが嫌いなのを知っていたので一切特別な扱いをしなかった。

ふと随分昔になるが一緒に食事に連れて行って貰った時に、露骨なほど清十郎を特別扱いした店に彼が怒ってしまいそこでは食べずに店を変えたことを明日菜は思い出す。

後でああいう大人になってはダメだと優しく教えられたことが少し懐かしく感じるが、よくよく考えると子供の前であからさまに客を差別するような店に清十郎が怒ったのは無理がないと今更ながらに感じる。



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