平和な日常~冬~
その後のこの日の店内は少しいつもと違う雰囲気であった。
学生達が多い時間にしては珍しく年配者が多く、麻帆良亭時代の話を懐かしむ彼らの話に少女達は食いついていた。
ある程度の年代では有名な店だった麻帆良亭だが、残念ながら現在の中高生は名前すら知らなかった者も多い。
自分達がいつも居る店の昔の話は、彼女達の興味をそそるには十分だった。
「先々代の頃を思い出すわね。 よく私達が騒いでは怒られてたもの」
「金欠の時によく飯を食わせてくれたよなぁ。 あの当時は気付かなかったけど経営大変だったろうに」
麻帆良亭時代の年配者達は自分達が学生時代の話で盛り上がるが、それは不思議と今のマホラカフェの様子と近いことに気づくと年配者も学生達も双方共に感慨深げである。
一つ違うのは当時の店主である先々代はしっかりした人間だったが、現在の店主である横島は騒ぎの中心に居ることか。
「閉店する時間に来ると余り物で飯を食わせてくれたからな」
麻帆良学園は基本的には私立学校なのであまり裕福でない人が入学することは多くはなかったが、大学生くらいだと奨学金や親の援助で入学して苦学生をしていた者はそれなりに居たらしい。
まあ年配者の大学生時代はまだ戦後と言える時代だったらしく、食べ物に苦労することもあったのだろう。
麻帆良亭の洋食を食べて未来に希望を抱いたと語る者も少なくない。
実のところ第二次大戦で京都などと同じく街が焼かれなかった麻帆良は、戦後しばらくは若者の憧れの街の一つでもあった。
当時は今よりも明治や大正時代の西洋風建築が多く残っており、日本の中で数少ない外国を感じる街だったのだろう。
「マスター知ってて借りたの?」
「まさか、偶然だよ。 ここさ改装予定があったらしくって改装が不要ならって安く借りれたんだよ」
少ししんみりとした空気の中でまるで昔に戻ったように若者で賑わう店に、昔の常連達はどこか嬉しそうだった。
そんな中で一人常連の少女が横島に過去を知ってて借りたのかと尋ねるが、横島は少し苦笑いを浮かべて否定する。
昔の常連もそうだが、何処か懐かしい雰囲気の店内に横島が麻帆良亭をよく知る人物かと思う人はたまにいるのだ。
「やっぱり改装予定があったのか」
「噂があったもんな」
横島は麻帆良亭を知らないと言いつつ改装予定があったことなどを語ると、昔の常連達は再び感慨深げに店内を見渡す。
麻帆良亭の古さを残しつつ今風に改装してレストランにするらしいとの噂は、麻帆良亭が閉店する頃からよくあったのだ。
実際に麻帆良には明治期や大正期の建築をリフォームや改装した店や住宅がそれなりに存在する。
ただ昔を知る人間からすると、それはあまり好ましいことではなかった。
正直リフォームや改装した建物は全く別な新しい物になったと感じる人は多かったのだ。
まあ不便さもあるしあちこち痛んで修繕が必要なのは理解するが、麻帆良亭くらいは残しておいて欲しいと考える人は多い。
「坂本さん、この後のご予定は?」
「いや特にはないが……」
「なら今夜限定で麻帆良亭を復活させてみませんか?」
過去と現在が交差し年配者と学生達が同じ空間で話しが進む中、またもや横島が突拍子もないことを言い出し店内の空気が固まる。
少し頑固そうな坂本夫妻はそのあまりに突然な話に表情が固まり、周りも言葉が途切れてしまう。
学生達が多い時間にしては珍しく年配者が多く、麻帆良亭時代の話を懐かしむ彼らの話に少女達は食いついていた。
ある程度の年代では有名な店だった麻帆良亭だが、残念ながら現在の中高生は名前すら知らなかった者も多い。
自分達がいつも居る店の昔の話は、彼女達の興味をそそるには十分だった。
「先々代の頃を思い出すわね。 よく私達が騒いでは怒られてたもの」
「金欠の時によく飯を食わせてくれたよなぁ。 あの当時は気付かなかったけど経営大変だったろうに」
麻帆良亭時代の年配者達は自分達が学生時代の話で盛り上がるが、それは不思議と今のマホラカフェの様子と近いことに気づくと年配者も学生達も双方共に感慨深げである。
一つ違うのは当時の店主である先々代はしっかりした人間だったが、現在の店主である横島は騒ぎの中心に居ることか。
「閉店する時間に来ると余り物で飯を食わせてくれたからな」
麻帆良学園は基本的には私立学校なのであまり裕福でない人が入学することは多くはなかったが、大学生くらいだと奨学金や親の援助で入学して苦学生をしていた者はそれなりに居たらしい。
まあ年配者の大学生時代はまだ戦後と言える時代だったらしく、食べ物に苦労することもあったのだろう。
麻帆良亭の洋食を食べて未来に希望を抱いたと語る者も少なくない。
実のところ第二次大戦で京都などと同じく街が焼かれなかった麻帆良は、戦後しばらくは若者の憧れの街の一つでもあった。
当時は今よりも明治や大正時代の西洋風建築が多く残っており、日本の中で数少ない外国を感じる街だったのだろう。
「マスター知ってて借りたの?」
「まさか、偶然だよ。 ここさ改装予定があったらしくって改装が不要ならって安く借りれたんだよ」
少ししんみりとした空気の中でまるで昔に戻ったように若者で賑わう店に、昔の常連達はどこか嬉しそうだった。
そんな中で一人常連の少女が横島に過去を知ってて借りたのかと尋ねるが、横島は少し苦笑いを浮かべて否定する。
昔の常連もそうだが、何処か懐かしい雰囲気の店内に横島が麻帆良亭をよく知る人物かと思う人はたまにいるのだ。
「やっぱり改装予定があったのか」
「噂があったもんな」
横島は麻帆良亭を知らないと言いつつ改装予定があったことなどを語ると、昔の常連達は再び感慨深げに店内を見渡す。
麻帆良亭の古さを残しつつ今風に改装してレストランにするらしいとの噂は、麻帆良亭が閉店する頃からよくあったのだ。
実際に麻帆良には明治期や大正期の建築をリフォームや改装した店や住宅がそれなりに存在する。
ただ昔を知る人間からすると、それはあまり好ましいことではなかった。
正直リフォームや改装した建物は全く別な新しい物になったと感じる人は多かったのだ。
まあ不便さもあるしあちこち痛んで修繕が必要なのは理解するが、麻帆良亭くらいは残しておいて欲しいと考える人は多い。
「坂本さん、この後のご予定は?」
「いや特にはないが……」
「なら今夜限定で麻帆良亭を復活させてみませんか?」
過去と現在が交差し年配者と学生達が同じ空間で話しが進む中、またもや横島が突拍子もないことを言い出し店内の空気が固まる。
少し頑固そうな坂本夫妻はそのあまりに突然な話に表情が固まり、周りも言葉が途切れてしまう。