平和な日常~冬~
さて坂本夫妻が昼食にと頼んでいたのはオムライスだった。
理由はそれほど深い訳ではないが麻帆良亭にもあったメニューであり、夫は引退したとはいえ洋食屋のコックを長年勤めていたのだから当然洋食の味が気になるらしい。
「皿も同じね」
どんどん賑やかになっていく店内で二人に運ばれて来たのは、オムライスとサラダと野菜のスープのセットである。
妻は自分達の時と同じ皿で運ばれて来たオムライスに思わず笑みがこぼれた。
バターの甘い香りとケチャップの酸味が食欲をそそるオムライスに、夫の方は思わず表情が真剣に変わる。
いくら料理が美味いと言ってもまだ二十歳そこそこの若者である横島に過剰な期待はしてはいけないと、自分を戒めつつもその味が気になって仕方ない。
「坂本さん?」
「想像以上だな。 卵料理は火加減が命だ。 ここまで出来るならば喫茶店にしておくのは惜しい気もする」
料理を前に表情が険しくなる夫に周りは興味深げに見つめていた。
昔の常連達も横島の料理が美味しいとは思うが、彼らにとっては思い入れが深い坂本夫妻の料理の方が好きなのが本音である。
それにかつて弟子には厳しかった夫の方が、横島をどう評価するかは興味深々であった。
「美味しいわね」
「ああ、美味い。 少し若い味だがな」
熱々の湯気があるうちにとさっそく夫妻はオムライスにスプーンを入れるが、妻は一口食べるとすぐに笑顔に変わる。
それは二人が守り通した味ではなかったが、卵とケチャップを最大限に生かしており美味しい物だった。
卵に自家製のケチャップの酸味や旨味が驚くほど上手くマッチしており、噛めば噛むほど口の中に味が広がりやみつきになるような味である。
周りは表情が硬い夫の意見を固唾を飲んで見守るが、夫は妻の言葉に頷きながらも若い味だと表現する。
「坂本さん、若い味って?」
「味付けが少し若いというか、今風だということだ。 技術的には問題ないし、ケチャップも自家製で全体的には本当に美味い」
横島の店でその味に注文を付ける人間は珍しく、いつの間にか昔の常連以外の学生達も驚き見つめているが、その評価の訳は納得のいく評価だった。
事実夫妻は一口食べて感想を口にした後も止まることなく食べ続けていき完食している。
正直予想以上の味に夫の方は一瞬自分が引退したことも忘れ、自分ならばどう料理するだろうかと真剣に考えていることに驚きを感じる。
店を閉めた時に全てをやり切って引退したつもりだったのに、自分の中にはもっと美味い料理を作りたいとの気持ちがあることに複雑な心境であった。
「なるほど、どっかで見たことあると思ったのよね」
一方横島が何かをやらかしたと誤解していた明日菜達だったが、前のオーナー夫妻が来たと聞いて納得していた。
「店が混むと俺がやらかしたって思うのは酷くないか?」
「前科がいろいろありますし、最近大人しいですからね。 そろそろ何かやらかすかと……。 自業自得だと思うです」
木乃香達も前のオーナー夫妻の顔というか妻の方の顔は覚えていたらしく、先程はとっさのことで思い出せなかったが言われてみるとすぐに思い出したようだ。
ただ横島は何もしてないのに疑われてちょっとやさぐれていたが。
そんなやさぐれてる横島に木乃香とのどかは少し申し訳なさそうにしてるが、夕映なんかは自業自得だと思うとはっきりと言い切っていた。
「俺の味方はタマモだけか?」
結局やさぐれた横島をタマモが心配して頭をなでなでするので、その姿に木乃香達や常連の少女達が爆笑してしまうことになる。
そして坂本夫妻はそんな横島をポカーンと見つめるしか出来なかった。
理由はそれほど深い訳ではないが麻帆良亭にもあったメニューであり、夫は引退したとはいえ洋食屋のコックを長年勤めていたのだから当然洋食の味が気になるらしい。
「皿も同じね」
どんどん賑やかになっていく店内で二人に運ばれて来たのは、オムライスとサラダと野菜のスープのセットである。
妻は自分達の時と同じ皿で運ばれて来たオムライスに思わず笑みがこぼれた。
バターの甘い香りとケチャップの酸味が食欲をそそるオムライスに、夫の方は思わず表情が真剣に変わる。
いくら料理が美味いと言ってもまだ二十歳そこそこの若者である横島に過剰な期待はしてはいけないと、自分を戒めつつもその味が気になって仕方ない。
「坂本さん?」
「想像以上だな。 卵料理は火加減が命だ。 ここまで出来るならば喫茶店にしておくのは惜しい気もする」
料理を前に表情が険しくなる夫に周りは興味深げに見つめていた。
昔の常連達も横島の料理が美味しいとは思うが、彼らにとっては思い入れが深い坂本夫妻の料理の方が好きなのが本音である。
それにかつて弟子には厳しかった夫の方が、横島をどう評価するかは興味深々であった。
「美味しいわね」
「ああ、美味い。 少し若い味だがな」
熱々の湯気があるうちにとさっそく夫妻はオムライスにスプーンを入れるが、妻は一口食べるとすぐに笑顔に変わる。
それは二人が守り通した味ではなかったが、卵とケチャップを最大限に生かしており美味しい物だった。
卵に自家製のケチャップの酸味や旨味が驚くほど上手くマッチしており、噛めば噛むほど口の中に味が広がりやみつきになるような味である。
周りは表情が硬い夫の意見を固唾を飲んで見守るが、夫は妻の言葉に頷きながらも若い味だと表現する。
「坂本さん、若い味って?」
「味付けが少し若いというか、今風だということだ。 技術的には問題ないし、ケチャップも自家製で全体的には本当に美味い」
横島の店でその味に注文を付ける人間は珍しく、いつの間にか昔の常連以外の学生達も驚き見つめているが、その評価の訳は納得のいく評価だった。
事実夫妻は一口食べて感想を口にした後も止まることなく食べ続けていき完食している。
正直予想以上の味に夫の方は一瞬自分が引退したことも忘れ、自分ならばどう料理するだろうかと真剣に考えていることに驚きを感じる。
店を閉めた時に全てをやり切って引退したつもりだったのに、自分の中にはもっと美味い料理を作りたいとの気持ちがあることに複雑な心境であった。
「なるほど、どっかで見たことあると思ったのよね」
一方横島が何かをやらかしたと誤解していた明日菜達だったが、前のオーナー夫妻が来たと聞いて納得していた。
「店が混むと俺がやらかしたって思うのは酷くないか?」
「前科がいろいろありますし、最近大人しいですからね。 そろそろ何かやらかすかと……。 自業自得だと思うです」
木乃香達も前のオーナー夫妻の顔というか妻の方の顔は覚えていたらしく、先程はとっさのことで思い出せなかったが言われてみるとすぐに思い出したようだ。
ただ横島は何もしてないのに疑われてちょっとやさぐれていたが。
そんなやさぐれてる横島に木乃香とのどかは少し申し訳なさそうにしてるが、夕映なんかは自業自得だと思うとはっきりと言い切っていた。
「俺の味方はタマモだけか?」
結局やさぐれた横島をタマモが心配して頭をなでなでするので、その姿に木乃香達や常連の少女達が爆笑してしまうことになる。
そして坂本夫妻はそんな横島をポカーンと見つめるしか出来なかった。