平和な日常~冬~
「あれは相当な何かがあるわ。 刀子、アンタやお嬢様達で本当にあの男を繋ぎ止めれるん? 悪い男やないから厄介な男やないん?」
少し慌てたように横島を心配してフォローする刀子に鶴子はため息をつくと、刀子を諭すように話を始める。
横島が悪い男でないのは百も承知であり、仮に悪い男ならば早々に穂乃香に報告していただろう。
それどころか鶴子は横島が悪い男とは真逆かもしれないと感じていた。
「それは確かに……」
悪い男じゃないから厄介だと言われた刀子は、正しくその通りかもしれないとしみじみと感じる。
よくよく考えればいろいろ思い当たる節があった。
「お嬢様の件を抜かしても人並みの普通の幸せが欲しいんなら、あの男は止めた方がええわ」
不器用な後輩を心配する鶴子は、刀子が普通の幸せを求めてることを理解している。
ただ横島は普通の家庭に入り普通に生きることは不可能だろうと、鶴子は何故かそう思う自分の考えに自信があった。
「普通の幸せ……」
それは刀子がずっと密かに求め続けていた夢である。
愛する旦那と一緒に暮らし子供を産み一緒に育てる。
そんなごくごく普通の生活が夢であり理想だった。
他の誰でもない若い頃共に修行に励み苦楽を共にした鶴子に言われたからこそ、刀子は自分の気持ちと真剣に向き合うことになる。
現状の刀子は自分の気持ちを偽り中途半端だが心地好い関係に幸せを感じており、それは一種の逃げではと鶴子は思う。
このままでは刀子は再び傷ついてしまうのは明らかであり、それを止めるのが先輩であり友人の勤めだと真剣に考えている。
「先輩、もう手遅れかも知れません」
しばらく沈黙が二人を包むが静かに答えを待つ鶴子に刀子が返した言葉は、もう手遅れだとの一言だった。
「このまま側に居たいんです。 例え女性として愛されなくても。 彼が若い子と愛し結ばれる姿を見ることになっても……」
鶴子の言葉は刀子自身も以前からずっと頭の片隅にはあったことである。
あまり近付くと手遅れになると理解しつつも刀子は離れることが出来なかった。
いつもはちゃらんぽらんそうな態度を取るのに、辛い時や苦しい時に限って気が付くといつの間にか癒してくれたあの感覚が忘れられない。
自分は彼の特別ではないと理解しても、それでもいいからと思ってしまうのだ。
「女の敵のような男やわ」
やはり遅かったかと内心で思う鶴子は、ふと妹の想い人の青年を思い出していた。
彼もまた悪い人間ではないが、だからこそタチが悪いと思うのだ。
「本人にその自覚は皆無ですよ」
女の敵と言われて刀子は思わず笑ってしまう。
誰よりも本人にその自覚が全くないのだから。
優しさが時には人を苦しめるなど横島は思いもしてないだろうと刀子は確信する。
まるで人が弱る時を見抜くような横島だが、自身の優しさが他人に与える影響を全く理解してない姿を見ると、刀子は彼もただの人なのだといつも思うのだ。
「今のうちに斬るべきかしら?」
「いくら先輩でも、それだけはさせませんよ。 今のところ彼に批はないんですから」
本人に女の敵だと自覚させる為に斬るべきかと冗談混じりにこぼす鶴子に、刀子は少し真剣な表情でそれだけはさせないと言い切る。
「本当にアンタは難儀な恋愛が好きやわ」
自分の気持ちと向き合い半ば開き直りとも取れる様子の刀子に、鶴子は再びため息をつくしか出来なかった。
妹といい刀子といい何故自分の周りはタチの悪い男に引っ掛かるのかと、嘆かずにはいられないのかもしれない。
そんな鶴子にはせめて刀子も木乃香も、どちらも幸せになる未来になってほしいと願うしか出来なかった。
少し慌てたように横島を心配してフォローする刀子に鶴子はため息をつくと、刀子を諭すように話を始める。
横島が悪い男でないのは百も承知であり、仮に悪い男ならば早々に穂乃香に報告していただろう。
それどころか鶴子は横島が悪い男とは真逆かもしれないと感じていた。
「それは確かに……」
悪い男じゃないから厄介だと言われた刀子は、正しくその通りかもしれないとしみじみと感じる。
よくよく考えればいろいろ思い当たる節があった。
「お嬢様の件を抜かしても人並みの普通の幸せが欲しいんなら、あの男は止めた方がええわ」
不器用な後輩を心配する鶴子は、刀子が普通の幸せを求めてることを理解している。
ただ横島は普通の家庭に入り普通に生きることは不可能だろうと、鶴子は何故かそう思う自分の考えに自信があった。
「普通の幸せ……」
それは刀子がずっと密かに求め続けていた夢である。
愛する旦那と一緒に暮らし子供を産み一緒に育てる。
そんなごくごく普通の生活が夢であり理想だった。
他の誰でもない若い頃共に修行に励み苦楽を共にした鶴子に言われたからこそ、刀子は自分の気持ちと真剣に向き合うことになる。
現状の刀子は自分の気持ちを偽り中途半端だが心地好い関係に幸せを感じており、それは一種の逃げではと鶴子は思う。
このままでは刀子は再び傷ついてしまうのは明らかであり、それを止めるのが先輩であり友人の勤めだと真剣に考えている。
「先輩、もう手遅れかも知れません」
しばらく沈黙が二人を包むが静かに答えを待つ鶴子に刀子が返した言葉は、もう手遅れだとの一言だった。
「このまま側に居たいんです。 例え女性として愛されなくても。 彼が若い子と愛し結ばれる姿を見ることになっても……」
鶴子の言葉は刀子自身も以前からずっと頭の片隅にはあったことである。
あまり近付くと手遅れになると理解しつつも刀子は離れることが出来なかった。
いつもはちゃらんぽらんそうな態度を取るのに、辛い時や苦しい時に限って気が付くといつの間にか癒してくれたあの感覚が忘れられない。
自分は彼の特別ではないと理解しても、それでもいいからと思ってしまうのだ。
「女の敵のような男やわ」
やはり遅かったかと内心で思う鶴子は、ふと妹の想い人の青年を思い出していた。
彼もまた悪い人間ではないが、だからこそタチが悪いと思うのだ。
「本人にその自覚は皆無ですよ」
女の敵と言われて刀子は思わず笑ってしまう。
誰よりも本人にその自覚が全くないのだから。
優しさが時には人を苦しめるなど横島は思いもしてないだろうと刀子は確信する。
まるで人が弱る時を見抜くような横島だが、自身の優しさが他人に与える影響を全く理解してない姿を見ると、刀子は彼もただの人なのだといつも思うのだ。
「今のうちに斬るべきかしら?」
「いくら先輩でも、それだけはさせませんよ。 今のところ彼に批はないんですから」
本人に女の敵だと自覚させる為に斬るべきかと冗談混じりにこぼす鶴子に、刀子は少し真剣な表情でそれだけはさせないと言い切る。
「本当にアンタは難儀な恋愛が好きやわ」
自分の気持ちと向き合い半ば開き直りとも取れる様子の刀子に、鶴子は再びため息をつくしか出来なかった。
妹といい刀子といい何故自分の周りはタチの悪い男に引っ掛かるのかと、嘆かずにはいられないのかもしれない。
そんな鶴子にはせめて刀子も木乃香も、どちらも幸せになる未来になってほしいと願うしか出来なかった。