次の朝になると横島は夜明け前から起きて一日の始動をしていた。

基本的に横島の起床時間は早く夏場と同じくらいなのだが、日の出の遅い冬場はまだ夜明け前から起きて仕込みを始めている。

特に秋の体育祭以降はスイーツがよく売れるので、開店前に一日の販売分のほとんどを作らねばならない。

仕込みの工程によっては前日から仕込んでもいるが、出来るだけ朝に出来る作業は朝にやるようにしていた。

ただ朝の仕込みは相変わらず料理専門のハニワ兵を手伝いに頼んでおり、横島達は慌ただしく仕込みをしていく。

ある意味では横島が一番忙しいのは朝のこの時間であり、途中夜が明ける頃になると庭の手入れをして仕入れに行くことになる。

ちなみにタマモに関しては相変わらず横島と一緒に起きており、横島が働く姿を着いて歩いて見ていた。

横島としてはもう少し寝ててもいいと言うが、本人は一緒がいいからと早起きしているのだ。


「しゅうかくできる？」

「もう二、三日様子みようか」

そしてこの朝の横島達は、収穫間近のほうれん草の畑を前にして成長具合の確認をしていた。

季節に合わせてあまり難しくない作物をと考えた結果、以前収穫した大根と同じく夏野菜の後にほうれん草も育てている。

麻帆良の早朝は一段と寒く、タマモは可愛らしい毛糸の帽子や手袋で完全防備してお手伝いをしていた。


「おはようございます！」

「偶然っすね。　店の方はどうっすか？」

夏場と違い庭の手入れもさほど時間がかからないこの季節は、ねこ達のご飯などをさよと茶々丸がやってくれるので横島とタマモは畑や花壇の手入れが終わると仕入れに向かう。

いつもと同じように朝市から回る横島だったが、そこで偶然宮脇伸二と出くわす。

つい半月前まで横島の店で四苦八苦していた伸二だが、この日の彼は一端の料理人の表情に見えていた。

横島とタマモを見つけると駆け寄って来た彼にタマモが元気よく挨拶すると、伸二も嬉しそうに朝の挨拶をする。


「おかげさまでなんとか盛り返して来てます。　横島さんの店や母さんの頃にはまだまだ及びませんけどね」

宮脇食堂に関しては先週夕映達が様子見を兼ねて行ったのだが、まずまずの様子と客の入りだとホッとした様子で語っていたのを思い出す。

この日の伸二も同じような様子であり、それなりに失敗もしてるようではあるが自分で改善出来ているようである。


「そりゃよかった。　頑張るのもいいっすけど、一人で無理だと思ったら遠慮しないで相談して下さい」

つい半月前のことが少し懐かしくなる横島は、自分が宮脇一家の役に立てたことが素直に嬉しかった。

この日伸二が抱える食材も、未熟ながらきちんと選んで買ったようだし量もそれなりにある。

このまま順調に行ってほしいと願いつつ、この日は立ち話だけで別れて横島は自分の仕入れの食材を買い込んでいく。

偶然の再会ではあったが、僅かな期間で独り立ちした伸二の元気な姿は横島自身にも暖かい気持ちを届ける結果となったようだった。