平和な日常~冬~

さて一家団欒を楽しんでいた近衛邸だが日付が変わる頃になると木乃香は一足先に寝てしまい、穂乃香と近右衛門は今回訪れた本題について話し合いを始めていた。


「正直複雑な気分じゃのう」

麻帆良に来る前に穂乃香は木乃香の今後について相談したいとだけ伝えていたが、近右衛門は相談の内容を薄々感じてしていたようだ。

木乃香へ魔法の存在を教えることは近右衛門は基本的には賛成ではあるが、一般人として幸せに生きる木乃香を見てると本当に教えていいのかとの疑問がない訳ではない。

穂乃香が近々魔法の存在を教えようかと考えてると打ち明けると、近右衛門は迷いの表情を見せる。


「身の安全を考えれば教えるべきじゃが、秘密を抱えることになるからのう」

近右衛門も穂乃香も今後を考えると木乃香の安全の為には魔法の存在を教えた方がいいと考えるのは同じだが、問題はそれほどシンプルではない。

まず第一に二人が悩むのは、魔法の存在を教えた場合は木乃香が新たに魔法という秘密を抱えて生きなければならないことだった。

これは魔法関係者の多くが悩むことでもあるが、秘密を抱えても親しい友人にも軽々しく言えないことは辛いことである。

そもそも一般的な魔法使いは割と幼い頃から魔法についてを教えるので、木乃香のように中学生から教えるケースは実はあまり多くない。

通常は同じ年頃の魔法関係者の子供と一緒に育つので、同じ秘密を抱える仲間が割と居るケースがほとんどだった。

これに関しては関東も関西も同じで幼い頃から秘密を共有することで仲間意識が芽生える。

ただ木乃香は立場が微妙な上に魔法を習うのかも分からないので、今後がどうなるかが不安であった。

出来れば秘密を共有してくれる友人が欲しいところだが、候補になりそうなのはあやか・千鶴・刹那くらいである。

しかしあやかと千鶴に至ってはまだ魔法の存在を知らされてなく、刹那に至っては木乃香との関係がギクシャクしており上手くいくか分からない。


「私も随分悩んだけど、アスナちゃんにも魔法の存在を一緒に教えたらどうですか?」

そしてもっと難しい問題は明日菜の扱いであった。

木乃香の性格では親しい友人の明日菜に魔法の存在を隠しきれるのか微妙だし、同時に木乃香以上に警護が必要な存在なのだ。

実のところ関東魔法協会内部でも、明日菜への情報開示は何度か議題に上がった過去がある。

流石に明日菜に自身の過去まで伝えようと考える者は居ないが、いっそ普通の魔法使いの子供と同じく育ててはとの意見は昔からあった。

まあ明日菜の場合は彼女が持つ魔法無効化能力が露見すると正体が暴かれる危険性があるので慎重論も根強いが、そもそも魔法使いと言ってもピンからキリまで居て一度も戦闘経験がない魔法使いも決して珍しくはない。

関東魔法協会では所属はしていてもデスクワークなどの仕事を専門にして、普段は戦いどころか魔法すら使わない魔法使いも割と多かったりする。

いっそそちらの後方活動組に明日菜を回してしまえば、一生戦いなんてしなく自身の能力すら気付かずに生きることも可能ではあるのだ。

穂乃香としてはこの機会に明日菜も魔法の存在を教えて、木乃香のどさくさに紛れて一緒に扱ってはどうかと考えていた。


「うむ、彼女のことは高畑君も交えて話さねばなるまい。 それと横島君にも一声かけねばならんしな」

木乃香と明日菜は紛れもなく親友だし、下手に秘密を抱えるよりは一緒に扱った方がいいのではとの穂乃香の意見は一考の価値はある。

まあ実際には木乃香や明日菜が魔法を学びたいと言った場合の問題もあるし、明日菜に関しては高畑にも相談しなくてはならない。

それと木乃香に魔法の存在を教えるならば、横島にも事前に声をかけねば木乃香達の関係がおかしくならないとも限らなかった。

今までは暗黙の了解で紙一重の遠慮があったが、木乃香や明日菜との距離を考えるといい加減きちんと話すべき時なのかもしれないと近右衛門は思う。



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