平和な日常~冬~

一方この日横島の店には、木乃香の姿がなかった。

穂乃香が来たので店には来ずに学校から直接近右衛門の邸宅に行って、今日は向こうに泊まるらしい。


「明日か明後日にはうちにも来るって言ってたんだよなぁ」

そんな木乃香の居ない店内では、横島と明日菜達が穂乃香の話をしている。

横島はもちろん会ったことはないが、明日菜は何度も会ったことあるし一緒に食事をしたこともあるようだ。


「綺麗な人だからって、あんまりデレデレしたらダメですよ。 木乃香が恥かくんですから」

穂乃香からは木乃香を通して明日か明後日には店に来ると事前に連絡を受けており、良かったら一緒に夕食でもと誘われている。

ただ明日菜は美人に弱い横島が、穂乃香にデレデレとするんじゃないかと少し心配していた。


「大丈夫だって、そのくらいの常識は弁えてるよ」

まあ横島も体育祭の時にはのどかの母や他の保護者と会っており、さほど恥をかくようなことをしなかったので冗談半分であったが。


(親父のようにはなりたくないからな)

半ばネタのようにからかわれ笑っている横島だったが、その冗談にふと昔を思い出してしまう。

それはかつて横島が美神事務所でバイトをしていた頃、一時帰国をした父の大樹が令子を誘って散々な思いをしたことである。

はっきり言えばあの件は今だに嫌な思い出でしかなく、横島が現在木乃香達の保護者なんかにきちんと対応してる件は大樹を反面教師にしていた。

浮気や遊びの良し悪しはともかくとして、息子のバイト先でやるあの神経は今だに理解出来ない。

こういう言い方は良くないかも知れないが、あの件は確実に横島と大樹の仲を悪化させたしその時に出来た溝は最後まで完全には埋まらなかったのだ。

まあ恨んでるとか根に持ってる訳ではないが、嫌な過去であることに変わりはないし麻帆良に来て以降の横島が大人には常識的な態度を取っているきっかけの一つではある。

幼い頃は決して悪い父親ではなかったが、あの女癖の悪さは横島のトラウマなのかもしれない。


「木乃香のお母さんって、意外とお嬢様って感じじゃないのよね」

「そうなの?」

「うん、かなりフランクな人よ。 育ちの良さは何となく感じるけど、なんか麻帆良の人っぽい軽さっていうのかな。 見た目とギャップがある印象かな」

横島が少し昔を思い出してる間に明日菜は、周りに居る美砂達やまき絵達などに穂乃香の印象を教えていた。

見た目は木乃香と似ている和風美人らしいが、明日菜いわく性格は大和撫子というよりは麻帆良の人らしい性格をしているとのこと。

一言で言えば名家のお嬢様らしくないように明日菜には見えたようである。

まあ明日菜が穂乃香と最初に会ったのは麻帆良に来た当初なので、まだ遠慮も何も知らなかった明日菜と同じ目線で付き合ったのかもしれないが。

ただ今でも穂乃香が麻帆良に来た時は一緒に食事をしたりと付き合いはあり、明日菜にとって穂乃香は友達のお母さんと言うよりは年上の友人のような印象のようである。



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