平和な日常~冬~

それから数日が過ぎて十二月も半ばに入ろうとしていた頃、クリスマス一色に染まった麻帆良の街を二人の女性が訪れていた。


「麻帆良は変わらないわね」

麻帆良の中心街の玄関口である麻帆良学園中央駅に降り立ったのは、洋服姿の木乃香の母である近衛穂乃香と護衛として同行している青山鶴子である。

以前詠春が麻帆良を訪れた時は腕に自信があるからか護衛を付けなかったが、流石に穂乃香には護衛が着いているようだ。


「ほんまにいつ来ても日本じゃあらへん街みたいですわ」

近右衛門の娘である穂乃香にとって麻帆良は生まれ故郷であり、もちろん学生時代は麻帆良で育ち麻帆良学園に通っている。

昔とあまり変わらない駅につい懐かしそうな表情をする穂乃香と対照的に、鶴子は少し物珍しそうな様子だった。

ちなみに穂乃香と鶴子が麻帆良に来たのはもちろん初めてではなく、前回訪れたのは今年の二月である。

流石にいつでも気軽に麻帆良に来れるような立場ではないが、それでも年に一度か二度は近右衛門と木乃香の様子を見に麻帆良を訪れていたのだ。

特に年老いた近右衛門を心配しており、穂乃香はそろそろ近右衛門に引退して欲しいと数年前から言っていたなんて話もある。

本来ならば今年の体育祭にも来ようかと考えていたのだが、体育祭ではフェイトの一件の余波で詠春が来ることになった代わりに留守番になっていた。

なお今回麻帆良に来た表向きの主な理由は木乃香が例のパーティーに出席する時のアクセサリー類を母に貸して欲しいと頼んだので、それを持参したという理由だったりする。

まあ他には近右衛門の健康や生活状況のチェックから始まり、横島への挨拶や関東魔法協会幹部との会食なども予定には入っていたが。

元々麻帆良で生まれ育った穂乃香は二十年前の戦争の影響でメガロ側の勢力が麻帆良から撤退しなければ近右衛門の跡を継ぐはずだったので、関東魔法協会幹部とは幼い頃から親交があり気心が知れた仲でもある。


「京都には京都の良さがあるし、麻帆良には麻帆良の良さがあるわ」

そのまま駅を出ると二人はゆっくりと散歩するように歩いて目的地に向かうが、すれ違う人々の表情を見て穂乃香は少し懐かしそうに微笑む。

人生の半分が京都での生活になり京都の良さも理解してる穂乃香だが、やはり故郷は違うのだろう。


「本当なら今頃は西も東もなかったはずなんだけどね」

懐かしい故郷の街を眺めながら歩く穂乃香は、ふと過去を思い出したのか意味ありげな一言を呟く。


「東西の統合ですか?」

「ええ、私が西に行ったのはそれが前提だったのよ。 お父様と先代のおじ様に頼まれてね。 最初の計画だと遅くても十年前には統合してるはずだったの」

少し冷たい風が二人の間を吹き抜けるように流れると、鶴子は穂乃香の言葉の意味を理解したのかそれを確認するように尋ねた。

そんな鶴子に穂乃香は、本来ならば鶴子のような若い者達が今頃は協力出来てるはずだったのにと少し残念そうに語る。

正直近右衛門の兄であり穂乃香の叔父でもある先代の関西の長が、あと十年長生きしていたら違う状況になっていただろうと穂乃香と鶴子は口には出さないが思っていた。

まあ実際には先代の長は自分の寿命が長くないのを知っていたので、穂乃香を関西に迎えた上で詠春を婿にして自分が亡くなっても東西の統合が進むように尽力したのだが。

ただ若い詠春と穂乃香では先代ほど組織を束ねることは出来なかったし、様々な外的要因も重なり統合は今だに理想でしかない。



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