平和な日常~冬~

さてその後も店は多くの学生達で賑わうことになるが、横島は料理を作ったかと思えば常連に呼ばれたりと相変わらず忙しい。

前日に続きテストの出来具合を報告に来る少女達も多く、上手く出来たと聞くと正直ホッとするのが本音だろう。

そして賑やかな時間は冬の夕暮れが完全に夜に変わるまで続いていた。


「いらっしゃい、珍しい組み合わせっすね」

店もだいぶ落ち着いてそろそろ横島達も夕食にしようかという頃、珍しく高畑と刀子が一緒に来店してくる。

同じ女子中等部の魔法教師として立場は近い二人だが、正直あまり一緒に居る姿を見たことはない。

まあ刀子も高畑も互いに相手が嫌いな訳ではないが、魔法使いとしての仕事内容や立場が違うので一緒に居る機会がないだけだったりするのだが。


「ちょうど同じ電車になってね」

珍しい組み合わせに横島のみならず明日菜も少し興味ありげに高畑と刀子を見つめるが、特に意味や理由などなくただ単に同じ電車で同じ目的地だっただけのようだ。

結局この日は刀子に加え高畑も一緒の夕食になるが、高畑の表情はだいぶ良くなったなと横島は素直に感じる。

言い方は良くないかも知れないが憑き物が落ちたような何処かスッキリしたような高畑は、以前のような近づきにくいようなオーラはほとんど見られなかった。

高畑が店に来たのは近右衛門と来て酔い潰れて以来だったが、良くも悪くも少しは吹っ切れたのかもしれないと思う。



「あの、高畑先生。 将来とアルバイトの件ですけれど、私少し迷っていて……」

そのまま大人数でのいつもと同じ和やかな夕食が終わると、明日菜は少し緊張した面持ちで高畑に以前話した将来やアルバイトの話について口にしていた。

あの後横島や木乃香と相談して明日菜は一度高畑とゆっくり話してみたいと思ったが、実際にはテスト期間だったことと学校ではなかなか二人で話をするタイミングがもないので今日まで言い出せずに悩んでいたようである。


「ああ、そうだね。 僕も少し時間をかけて話しをするべきだと思ってたんだ」

相変わらず高畑の前だと緊張してしまう明日菜だったが、それでも以前と比べるとだいぶマシになっており今はきちんと向き合えるようにはなっていた。

そんな緊張気味の明日菜を高畑は優しく見つめて、ゆっくり話をしようと口にする。


(あの高畑先生がね…… 変われば変わるものね)

一方食事を終えた刀子はカウンター席で仕事の残りを片付けていたが、明日菜と向き合う高畑を見て素直に驚いていた。

木乃香の護衛という仕事の関係で刀子は明日菜の気持ちもなんとなく知っていたし、麻帆良祭で近右衛門に密命を受けて以来は密かに明日菜にも気を配っている。

正直刀子は明日菜を不憫に思っていたが、以前の高畑ならば明日菜と向き合うとは思えなかったので驚くのも無理はない。


(これも貴方の影響かしらね)

刀子は以前の高畑を過去という呪縛に縛られていると感じていたが、それを解き放った最大の原因はフェイトの一件だろうが横島にも一因はあると考えていた。

実際に目に見える成果として成績が上がったし、それ以外にもこの数ヶ月で明日菜は本当に変わったのだから。

何より横島がタマモやさよのみならず木乃香や明日菜達をいかに優しく見守っているかは、少し気をつけて見れば分かることなのだ。

刀子自身も刺激を受けた自覚はあるし、高畑も何かしらの刺激を受けたのだろうと思う。

そんな横島だが先程木乃香達とスイーツの試作をするからと厨房に行ったが、何故か今日は明日菜には声をかけなかったことからも分かるように、高畑の変化と明日菜が話をしようとしていたことを知っていたのだと考える方が自然だった。


(本当に怖いくらい優しいんだから)

厨房から聞こえる楽しげな声とフロアで真剣に話す高畑と明日菜の声に、刀子は横島の優しさが少し怖いと感じる。

あの優しさに包まれて慣れてしまったら抜けられなくなるようで怖かったのだ。

ただ自分からそれを拒絶することはもっと難しいと思うとため息が出るようだったが。


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