平和な日常~冬~

テスト当日の朝はあいにくと雨模様であった。

天気のいい朝ならば麻帆良の恒例である賑やかな登校風景が見られるが、この日はほとんどの生徒が普通に傘を差して登校している。

日頃走って登校する明日菜に合わせるようにインラインスケートで登校している木乃香であったが、流石に雨の日は明日菜も走らないし危ないのでいつもより早めに寮を出て普通に登校していた。

そして二学期から同じ女子中等部に通っているさよに関してだが、晴れた日は夕映・のどか・ハルナなどと一緒に登校することが多い。

他にも美砂達やあやか達と一緒に登校することも多いが、登校時間に関しては同じ寮に住んでるだけに明日菜達のようにギリギリでない者は似たような時間になるらしい。


「雨ですね~」

この日はテスト当日だけあっていつもの元気がない中等部の少女達の中で、数少ない普段とテンションが変わってないのは雨が今でも新鮮に感じるさよであった。

傘や街を叩く雨音も肌で直に感じる冷たさも、さよにとっては掛け替えのないものである。

たった一人で学校という活気溢れる場所で半世紀も孤独だったさよは、何気ない変化が何より幸せだと知っていた。

冬の寒さも雨の冷たさはもちろんのこと、テストの不安や緊張感でさえ素晴らしいものだとさよは思う。


「さよちゃんは今日も楽しそうだね。 私なんかテストの点数次第で補習もしなきゃダメだし、あんまり成績が下がるとお年玉に影響するからさ……」

お気に入りの可愛らしい傘を差して楽しそうに歩くさよは、まるで傘を買ってもらったばかりの子供のようであった。

日頃はさよと同じく天真爛漫なまき絵ですら今日ばかりはテストが気になって元気がなく、いつもと変わらぬさよが羨ましそうである。

彼女に限らず基本的にテストの成績をあまり気にしない者も、二学期末のテストはお年玉なんかに影響するので結構頑張っていた。

まあ主に苦労したのは教えていたのどか・あやか・千鶴達ではあったが。

無論横島も率先して教えてはいたが、どうしても横島がやると苦労には見えないのが実情だった。

当然教えるのは上手いし効率もいいのだが、教えて貰う側と一緒に脱線して騒ぐせいかもしれない。


「学校で勉強出来ることは幸せなことなんですよ。 私はずっと勉強出来なかったですから」

自分を羨ましそうなまき絵を始めとした友人達に、さよは優しく微笑むと学校に通えて勉強出来ることは幸せだと断言する。

二学期から正式にクラスの一員になれたさよは少し子供っぽい無邪気な性格だと見られていたが、時折驚くほど大人びた表情をする瞬間があった。

今この瞬間もさよはそんな大人の笑顔であり、そのギャップの大きさは周りの少女達から見て何処か横島と似ていると感じる。

基本的に天然キャラであるさよも過去には病気と闘い苦労したのだと勝手に推測して、妙に明るく天真爛漫になったのは横島とタマモの影響かと新たな誤解を生んでいた。

結局テストに向かう憂鬱な気持ちを晴らしてくれるような強さと優しさを感じるさよの言葉を胸に、少女達は学校へと登校していった。



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