平和な日常~冬~

一方パーティーのスイーツはと言えば、あれからいろいろ試作はするが未だに決まってなかった。


「今度は暖かいケーキですか」

ただ横島達と新堂達が一緒に考えるようになって、パーティーで披露するレベルの物が出来てない訳ではない。

バタークリームを使ったケーキなんかもかなり完成度は高くなっており、年配者の懐かしさと若者には新鮮さで十分いい出来なのだが横島達は未だに試作を繰り返している。

何と言うかパーティー云々よりも試作自体を楽しんでるのではと新堂のスタッフ達は思うが、この熱意が新堂を現在の実力まで導いただけにスタッフ達は見守るしか出来なかった。


「チョコレートケーキはよくあるんで和風にしたんだけどどうだ?」

そんな横島達がこの日作ったのは、小豆と抹茶クリームを使った和風の温かいケーキである。

温かいケーキはチョコレートなどを用いた物はフランスのフォンダンショコラを筆頭に珍しくないからと、横島達は年配者向けにと和風の温かいケーキを使ったらしい。

この日は新堂のスタッフ達とのどかに加えて、勉強をしていた明日菜達を始めとした多くの中高生が割と残っていた。

テスト勉強中なのであまり騒ぐ訳ではないが、最近新堂が来てる時は遅くまで残っていれば味見をさせて貰えるのだ。

実はそれを楽しみに横島の店で勉強してる者も居たりする。


「温かいケーキって当日も作れるんですか?」

「いや相当大変だと思うよ。 あのパーティー全部で6時間近くやるんだ。 メインはダンスパーティーなんだけど、いろいろイベントがあるからなぁ」

スイーツの試作という名の元で夜食ならぬ夜おやつになる店内では若い少女達の声で賑やかになるが、厨房では新堂のスタッフ達が若干頭を抱えていた。

温かいケーキは冷める前に食べなきゃ美味しくないと少女達に語る横島を見たのどかが、本番で作れるのかなと何気なく新堂のスタッフ達に尋ねるが当然かなり難しい要求のようである。


「まあ他の料理の大会優勝者は温かい料理にする人も居るけど、それでもあまりデリケートなメニューは選ばないんだよ。 パーティーは長いけど混むのは夕食時だし多少の作り置きは必要なんだよね」

とりあえず思い付いた物は試作していく横島・木乃香・新堂の三人だったが、基本的に彼らは当日のことをあまり考えてなかった。

基本的に当日はホテルの厨房を間借りして大量に作らねばならないだけに、それをどう乗り切るかも業界関係者からは注目されている。

料理大会のように限られた人数分を作るのではなく本当の店での営業のように大量に作るパーティーでの料理披露は、大会優勝者のみならず優勝者を輩出したサークルや調理系学科の現実的な実力が問われるのだ。


「そのことなら大丈夫ですよ。 あれでも麻帆良祭での2-Aの店舗を成功させたのは横島さんですから。 本番で無茶をいう人ではないです。 今は多少ハメを外してるようですが」

スタッフ達は横島や新堂が新しい挑戦をすると言い出して無理難題を言わないか不安なようだが、そんな時偶然厨房に様子を見に夕映がやって来ていて横島ならば大丈夫だと太鼓判を押す。

そもそも横島と新堂は同じように試作品を作ってはいるが、横島は新堂ほど本番でチャレンジするタイプではない。

確かに新堂ならばギリギリのラインで難しいことに挑戦したがるかもしれないが、横島は根が臆病なので意外と地に足の着いた確実な方法を選ぶと夕映は知っている。

尤も横島の場合はその代わりに人がやらないようなことを突然付け加えたりして、騒ぎを大きくする癖もあるが。


(この子も噂以上にしっかりしてるな)

結局不安そうなスタッフ達にのどかの場合は大丈夫ですよと励ましにも聞こえるようにしか言わないが、夕映はきちんと理屈を説明して大丈夫だと語っていく。

そんな夕映の姿に新堂のスタッフ達は、夕映が一部の人達がマホラカフェの店長だとの噂を思い出し何故か納得してしまう。

どうやら働かない横島の代わりにあれこれと積極的に動いていた夕映には、いつの間にか新しいあだ名がついていたらしい。


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