平和な日常~春~

その後この日もいつも通りに店の営業をする横島だったが、午前10時を過ぎた頃に店にやって来たのはエヴァだった


「いらっしゃい。 サボりか?」

「アールグレイとチーズケーキ」

午前中から一人で店に来たエヴァに横島は学校の事を尋ねるが、エヴァはそんな横島の言葉を無視して注文を頼む


「おまちどうさま。 ゆっくりしていきなよ」

自分の言葉を無視された横島だったが、全く気にした様子もなくエヴァに注文された物を出す

そんな横島をエヴァは相変わらず無表情のまま見つめていた



基本的にエヴァが店に来店するのは平日の午前中か日が暮れた後である

どうも木乃香達などの学生の多い時間を避けてるとそんな時間になるらしい

この日もエヴァはいつもと同じ一番奥の席に座り、ただ無言で紅茶とケーキを楽しむ


「いらっしゃい」

「珍しい顔に会うのう……」

エヴァが来店してから15分ほど過ぎた頃、次に来店して来たのは近右衛門だった

近右衛門は横島に注文を頼むと勝手にエヴァの向かいの席に座る


「じじい、貴様何故そこに座る。 席は他にも空いてるだろう」

さも当然のように向かいに座った近右衛門に、エヴァは本当に嫌そうな表情で睨みつけていた


「一緒に茶を飲むくらい構わんじゃろう? 本当は碁でもあればよかったのじゃが……」

嫌そうなエヴァにも近右衛門は相変わらず飄々としている

そのまま二人の間には微妙な空気が流れるが、それを変えたのは横島だった

なんと横島は近右衛門の注文した日本茶と一緒に碁石と碁盤を持って来たのだ


「囲碁をやるんならどうぞ。 こんな事もあろうかと用意してたんっすよ」

ニコニコと楽しそうな笑顔で碁石と碁盤を持って来た横島に、嫌そうな表情のエヴァも飄々としていた近右衛門もポカーンとしてしまう


「君も囲碁をやるのかね?」

「俺はなんとかルールを知ってるくらいっすよ。 実は喫茶店を開く時に客寄せになるかと思って、この手のゲームを何個か買ったんです」

驚きの表情を浮かべる二人だったが、近右衛門が事情を尋ねると横島は訳を話す

実は喫茶店を開店する前に客が全く来ない事も予想した横島が、囲碁・将棋・チェス・オセロなどを何個か用意して客寄せにしようかと考えてたのだ

しかし実際には木乃香のおかげで開店当初から客が入った為に、使う機会が無かった物である


「ちっ、余計な事を…… 貴様、じじいの顔を見ながらお茶など飲みたいと思うか?」

「………悪い、ケーキサービスするわ」

説明に納得する近右衛門と対照的にエヴァは不愉快そうな表情で思わず文句をつけるが、エヴァの気持ちをなんとなく理解した横島は追加のケーキと紅茶をサービスすると告げて謝ってしまう


「老い先短い老人をいじめるとは悲しいのう」

「またそんな戯言を、貴様がそんなタマか!?」

横島とエヴァのやり取りになんとなく不愉快だったのか、近右衛門は若干いじけた様子で横島とエヴァを見つめるがエヴァはバッサリと切り捨てる


44/86ページ
スキ