平和な日常~冬~

その後この日もパーティー用のスイーツを幾つか考え試作したりしたが、木乃香は寮に戻りベッドに入って今日新堂に言われたことを考え始めていた。

新堂が語った羨ましいと言う言葉に木乃香は少し考えさせられる物がある。

実はあの後新堂は普通は教わる相手に合わせて手取り足取り教えてくれるプロなど、早々居るものではないとも語ったのだ。

横島は相変わらず自分はプロじゃないからと笑っていたが、木乃香もよく考えてみると新堂の言葉は胸に響くものがあった。

元々木乃香も自分達が恵まれてるのは流石に自覚していたが、いつしか横島のペースに慣れてしまい一般的な常識と掛け離れつつあると再認識する。


(でも横島さんやし)

木乃香にとって新堂は横島にないモノを持つ存在であり彼女の言葉は本当に為になるが、一方は新堂はまだ横島を誤解してるなとも感じていた。

そもそも横島がいろいろと規格外なのは今更だし、横島の場合はその分だけ欠点というか欠けてる部分が人よりも多い。

それに横島は特に形式張った関係などが好きではなく、実力などから立てると自分からそれをぶち壊したがる癖がある。

仮に木乃香達が立場を弁えた態度に変わると、横島は間違いなくそれをぶち壊しに来るのは明らかだった。


(新堂先輩、横島さんに教わりたいみたいやけど……)

加えて木乃香は新堂が横島に弟子入りのように本格的に教わりたいと考えてることになんとなく気付いているが、横島があのままでは受けないことも理解している。

世間的に木乃香はいつの間にか横島の弟子扱いだが、横島には全くそんな意識はなく一緒に楽しむ程度の認識しかないのだから。

仮に新堂が横島に教わりたいならば、明確な立場の違いを作ってはダメなのだ。


(新堂先輩って綺麗な人やから……)

まあ木乃香としては新堂は憧れの対象であったが、同時に僅かだが胸がモヤモヤするのも確かだった。

自分には理解出来ないレベルで瞬時に横島と話が合う新堂を見てると、少し落ち着かないのである。

もちろん新堂が居ると楽しいのは変わらないし勉強にもなるが、スイーツに限定すると木乃香達以上に横島の価値観を理解する新堂が怖いのが本音だろう。

どこか浮世離れしてる横島を彼女なら捕まえられるのではと思ってしまう。

実際木乃香から見て新堂は才色兼備で隙が見えないだけでなく、性格もいいとくれば不安にならない方がおかしいのかもしれないが。

夕映達は新堂の凄さを身近で感じた経験がないのでそこまで感じてないようだが、木乃香は新堂と横島が惹かれ合うのではと考えていた。


結局木乃香は新堂と一緒にスイーツを作ることに楽しさと不安の両方を抱えていくことになるが、それは恋愛を知らぬ彼女がいつかは通る道である。

ただ反面で木乃香は自分と横島の関係がどれほど近いかをあまり理解して無い。

木乃香は単純に二人は結構お似合いだと考えモヤモヤした気持ちを抱えるが、端から見ると木乃香はそれ以上に横島とお似合いに見えてるなど思いもしないことだった。

そして何より横島も新堂も互いに恋愛感情がまるでないことを見抜くには、些か経験不足であった。



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