平和な日常~冬~

さてこの日の夕方になると横島と木乃香は、バタークリームを使った本場のブッシュ・ド・ノエルを作っていた。

基本的にロールケーキの一種で木乃香も料理大会で作ったことからスポンジ生地はそれなりに慣れてはいるが、バタークリームは何度も作って慣れる必要がある。

本番のパーティーで披露する物はまだ決まってないが、作るスイーツを必ずしも一つに絞る必要はないのでバタークリームケーキが有力な候補なのは確かだった。


「高畑先生達なら昨日うちにも来たぞ」

相変わらず楽しげにケーキを作る横島と木乃香だったが、この日は厨房に明日菜も来ていて昼休みの高畑に言われた件を横島と木乃香に話していた。

やはり突然将来の話やお金の話をしたのか気になるらしい。


「えっ!?」

「明日菜ちゃんのバイトの件で少し話しただけなんだけどさ」

なんか訳があるのかなと珍しく深読みする明日菜に横島が昨日会って話したと言うと明日菜のみならず木乃香も驚いてしまう。

二人の様子に横島は少し苦笑いを浮かべつつ、高畑の泥酔の辺りを隠して明日菜の現状や今後について話したことを素直に教えていく。


「明日菜ちゃんの気持ちも分かるけど、ぶっちゃけ高畑先生達の気持ちも解らんでもないよな。 仮にさよちゃんが学校に通いながらバイト掛け持ちなんてしたら、俺も多分止めるぞ」

正直明日菜も木乃香も、横島が高畑や近右衛門と明日菜の現状や将来について話したのは意外なようだった。

ただ横島は横島で高畑が特に説明もしないまま、突然将来やお金の話をしたことに驚いていたが。

今までが今までだけに仕方ないのかも知れないが、もう少し心境の変化や話す理由をきちんと教えるべきだとも思う。

結局横島が高畑の親代わりとしての心境を代弁するしか無かった。


「そういうものなのかな?」

「大人になれば嫌でも金に振り回されるからな。 学生の時くらいは自由にさせてやりたいって考えても不思議はないだろ。 それに子供を預かるって俺でも悩むからな。 本当の家族として受け入れる覚悟がないなら止めた方がいいし、高畑先生にその覚悟がないとは思えんしな」

悩むというか胸がモヤモヤとする様子の明日菜だったが、いつになく真面目に答える横島の話を素直に聴き入ってしまう。

日頃はちゃらんぽらんに見えて細かいことはすぐに周りに丸投げする横島だが、それだけでないのは当然知ってるし本当に悩む人の占いや相談に真剣になってるのもよく見ていた。

しかも横島自身もさよやタマモを預かってるだけに話に説得力がある。


「まあ最近なんか心境の変化があったのも確かだろうけどな。 ボランティアでなんか経験したとか学んだとかあるんじゃないのか?」

その後も明日菜の悩みに真剣に答え彼女が一番知りたい高畑の変化の理由まで推測のように教える横島の話を、明日菜と木乃香は引き込まれるように聞いていく。

あまり面と向かっては言わないが、横島の信頼度は高畑よりも遥かに高い。

無論高畑が信頼出来ない訳ではないが、明日菜や木乃香にとってあまり身近な存在でないことは確かなのだ。

強さも弱さも長所も短所もよく知る横島の意見は、明日菜にとって決して軽くは無かった。



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