平和な日常~冬~

さて木乃香や新堂達とのスイーツ作りが終わると横島は一人で閉店作業と明日の仕込みをするが、そんな夜遅くに店を尋ねて来たのは近右衛門と高畑の二人だった。


「閉店した後にすまんのう」

「いや、構いませんんよ。 せっかくですし熱燗にしますか?」

この日は新堂達との作業に集中したいからと早めに閉店していたが、近右衛門と高畑とは相談があるからと約束していたのだ。

横島は熱燗とつまみ簡単な用意して、近右衛門と高畑と酒を飲みながら話を聞くことにする。


「相談の件じゃが、明日菜君のことじゃ。 最近は成績も上がって順調じゃが、一つだけ気になることがあってのう」

つまみを肴に酒を飲み一息つくと近右衛門が相談事を話すが、どうやら明日菜の件らしい。

近右衛門の言葉に横島は何の話かと少し考えるが、まさか今日突然明日菜の過去を話すとは思えないし何のことかさっぱり分からない。


「さほど深刻な話じゃないよ。 アルバイトの件なんだ。 僕も学園長先生もアルバイトを掛け持ちしてる現状はあまり良くないと思ってるんだが、君の意見を聞きたいと思ってね」

少し考え込む横島に高畑は、深刻な話かと誤解させたかと笑って否定しつつ話を始める。

現状の明日菜は成績も安定してるし成績から来るやる気と自信で過去にないほど充実しているが、二人が気になったのは明日菜のアルバイトのし過ぎだった。

麻帆良学園では生徒の自主性を重んじる関係からアルバイト関係の校則は存在しないが、流石に掛け持ちしてまでアルバイトをさせるのはどうかと思ってるらしい。


「そうですね。 体力的には問題はないと思いますよ。 店のシフトは彼女達で決めてるので俺は関与してませんけど、明日菜ちゃんは多く働きたいからと土日によく入ってます」

そんな高畑の話に横島はホッとしたように日頃のバイトの様子やシフトの仕組みを説明するが、あくまでも個人的な意見ではなく一般論というか経営者として話していた。

横島本人はあまり気にするタイプではないが、明日菜の実質的な保護者である二人に比べ横島は雇用主ではあるが他人である。

二人も横島の意見など求めてないだろうと当然気を使っていた。


「まあ建前はそんなとこじゃろうが、ワシらは君の本音が聞きたい」

しかしそんな横島の言葉を完全に予期していた近右衛門は、相変わらずの笑い方で笑うと本音が聞きたいとずばり指摘する。


「本音って言われても。 ぶっちゃけ働き過ぎだとは思ってますけど。 ただ本人が望んでますし、俺も学校関係とか友達関係に影響しないようには考えてはいますよ」

近右衛門の直球過ぎる言葉に横島は思わず困ったような表情をするが、横島も明日菜の現状は以前から気にしていた。

朝夕の新聞配達に店のバイトとなれば、はっきり言えば働きすぎなのは言うまでもない。

ただお世辞抜きで明日菜は店の戦力になっているし、横島は明日菜が学校関係や友達関係で辛い思いをしないように気にかけている。


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